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私は生まれて少ししてから人に乗られている。一日の八割くらいは乗られたまま過ごしている。決してこの現状に甘んじているわけではないが、ここから脱する術がないのだ。私だって、この扱いには納得がいっていなかった。しかしそれも最初の一年ほどだ。きっと私にはこの生き方が向いているのだろう。
実を言うと、一年が経とうかというときに心境に変化があった。つい昨日まで、また座られるのか、と暗鬱な気持ちになっていた。しかし実際に座られてみると驚いたことに、実に気分がいい。なんというか、言葉では言い表せない快楽が身体を支配した。ずしっと重くて硬い尻を押し付けられているというのにゾクゾクと鳥肌がたった。
その日から座られること、もとい座っていただくことが楽しみになっていた。もしかしたら私は実に変態的な状況なのかもしれないと思ったこともある。しかし、私のことを見ている人は座っていただく人以外にいない。たとえ変態だとしても見られなければ問題ないと判断した私は、毎日楽しんだ。
ある日、違う人が私に座った。いつもの重くて硬い尻ではなく、柔らかく軽い尻だった。正直、最初はあまり満足できなかった。しかし、ある一定を超えたときこの尻の良さがわかった。軽くても重さは私の身体に累積した。そして、柔らかさが私を癒す。つまり、「アメとムチ」である。私はすっかり変態になっているなと思った。
このように毎日楽しんでいれば、私の身体をにもガタがくる。私の脚が悲鳴を上げたのだ。脚が壊れてしまった私は病院に行くことなく、捨てられてしまった。私という存在は消えるのだ。私に一枚のシールが貼られ、ゴミステーションに放り出された。
私は寂しさを紛らわすように空を見上げ、壊れた脚を揺らした。
一組の男女がゴミステーションの前に立っていた。男がボソッと呟いた。
「この椅子はもうダメだな。お気に入りだったが仕方ない」
粗大ゴミの収集シール貼られた椅子は、寂しさを表すように壊れた脚を揺らした。
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