プロローグ

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 色を失っていくことが怖かった。 新緑の葉は濃淡がなく、緑色の何かにしか見えない。 昨日まで手が届かないくらい高かった空も、のっぺりとした色で天井のようにがんばれば触れられそうだ。 色彩豊かな日常はもうどこにもなかった。 当たり前のはずだったのに。 セピア色や白黒でもない単調な景色が映っていた。 もう桜ですらきれいだと思えない。  いつからこうなってしまったのだろうか。 思い返せば人間関係が原因だった。 最初は些細なことだった。 友達と喧嘩して口をきかなくなっただけ。 その日は、次の日になれば自然と元通りになる、そう思っていた。 でも、そうはならなかった。 時間が過ぎていく程、誰も話してくれない。 気づいた頃には手遅れで孤立していた。 みんなが敵。 小さな子供が心を壊すには十分だった。 世の中、この世界がつまらない。 そう考えるようになっていた。 人間関係はめんどくさいもの。 頭にそして心に刻まれていた。 それからは人が何を言うとするか分かり、当たり障りのないことを返す。 それでいいんだ。 そう言い聞かせると、心が楽になっていた。 別に今の環境が嫌ではない。 ただ、その代償なのか、目に映る風景から色彩がなくなっていた。
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