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1章 -高校2年・春-
春の通学路の両脇には、桜が咲き誇っている。
目の前を飛び交う花びらが、蚊柱のようにうっとうしく思える。
手で払うことをせずにそのまま歩いた。
変な目で見られそうだ。
昨日、入学式を終えたばかりの新入生のキラキラとしたオーラに圧倒されていた。
これから始まる高校生活に希望を抱いているだろう。
二回、三回とこの並木道を通る生徒は、クラス替えで好きな人と一緒になれるとか友達と同じクラスになれるかどうか祈っていると思う。
そんな人たちは、俺が何しようと気にしないだろう。
顔に舞った数枚の花びらを払い退けた。
生徒たちの間を早足で抜けて、学校へと向かう。
「おはよう、雄也」
後ろから肩を叩かれる。俺に挨拶をするのは一人しかいない。
「おはよう、将生。朝から元気そうだな」
そう言って堪えきれずに欠伸をした。
「当たり前だろ。今日から新学期だぞ。お前も急がずに桜を見ながらゆっくり歩いたらどうだ?」
あまりの眩しさに目を逸らした。
将生とは、小学生の時から付き合いだ。
人付き合いが苦手な俺にとって唯一の親友。
性格は真逆で人望があり、おまけに顔も整っている。
そして、当然モテる。
周りからは、どうして坂下くんは榊くんと一緒にいるんだろう、という声が聞こえてくた。
それはもう昔からなので慣れている。
「将生は、もう俺と話さない方がいいんじゃないかな。周りからすると変みたいだし」
「いつも言ってるが、周りなんてっ関係ないだろ。それにそういうこと言う人に、いいやつなんていないさ」
少し心苦しさが残っている。
気にしないようにできる強いメンタルが欲しいと思った。
「榊先輩、おはようございます!」
ハキハキとした声が響く。
その声には聞き覚えがあった。
「橘か。久しぶりだな。本当に同じ高校だったんだな」
橘とは家が近く、小さい頃からよく遊んでいた。
けれども、歳を重ねるごとに頻度は減っていた。
「昔みたいに千春って呼んでくださいよ」
ニヤニヤした顔で橘が言った。
昔のような俺もからかう時に見せる表情。
これはいつも通りの冗談だろう。
「やなこった」
「残念です。坂下先輩もお久しぶりです」
「橘さんは変わらないね。困ったことがあったら、聞いてくれよ」
「はい。よろしくお願いします」
一日の始まりが、こんなにも賑やかになるとは思ってもいなかった。
本当はひっそりとしていたかったが。
自分を取り巻く環境の変化の始まりだった。
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