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(1)
数十年前までは和ノ國から異国へと渡る事は禁止されていたのだが、今では上へ申し出て許可さえ通れば自由に行き来をすることができる。
旭仁は旭家の三男坊として生まれた。
この先、うまく養子先があれば良いが、部屋住みとして肩身の狭い思いをしながら一生を終えるかもしれない。
それなら自活をし生きていく方が良いと、以前から心に秘めていた事をしようと、父に異国へと渡り自活したいと申し出たのが15歳の時。
異国なら今まで習ってきた剣術の腕をいかした仕事が見つかるかもしれない。
そう父へ説得するが、そう上手くいくとは思えないと、以前、商いの為に異国へと渡った小早川へと仁と共に連れて行ってくれないかと頼み込んでくれた。
こうして仁は異国の地へと向かう事になったのだ。
小早川智広とは、もともと幼い頃から友であった。
智広が和ノ國へと戻ると珍しい異国の土産と共に話を聞いていた。
だが、実際に目にした異国の地は色鮮やかで、和ノ國とは違う街並みに目も心も奪われっぱなしだ。
「すごいな」
「僕もはじめての時は仁と同じ反応だったよ」
物珍しそうに眺めている仁に、智広はクスクスと笑い声をあげる。
「コバヤカワの坊ちゃん、今日は御友達と一緒かい」
小早川はこの辺りでは有名な商人らしく、街の人が声を掛けてよこす。
「ほら、お菓子をあげようね」
とお菓子を渡されたり、頭を撫でられたりする。
成長途中である体にはまだ幼さが残り、どうやらそのせいで子ども扱いをされるようだ。
「和ノ國の者は若く見られがちなんだよね」
と智広が苦笑いを浮かべ、一体いくつに見られているのかと聞こうと思ってやめた。
アクトリア王国王国の同い年の子達は大人びており、自分が思うよりも子供に見られているのだろうなと感づいてしまったから。
ただ、見た目で馬鹿にされぬよう立派な男になりたい。その思いでアクトリア語を必死で覚え、頑張って働いた。
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