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実家に戻り近状報告を終え、今度は出航の準備をする為に船に戻る。今回は二泊の予定なのでとても忙しいのだ。
あらかた準備を終えた頃、船にアンセルム達がくる。お付の騎士達は手に沢山の荷物を抱えていた。
「随分買いましたね」
その中には昨日の飴細工が瓶の中に詰められていた。
「気に入ったのですか?」
「あぁ。一緒に食べた思い出をね」
飴の瓶を嬉しそうに撫でる姿に、心がホッコリとして、つい口元が綻んでしまい、それを見られないように顎に触れて表情を隠す。
「王太子へ贈る品は、良い品は見つかりましたか?」
とそれを打ち消すかのように別の話題へと話をふる。
「あぁ。ウルシというもので塗られた手紙を入れる箱が素晴らしかったので買ったよ」
「文箱ですね」
「そうそう、それ。気に入ってもらえるといいな」
アンセルムは風呂敷に包まれた箱を大切そうに胸に抱く。
心から兄を想い選んだのだろう。そういう優しさは嫌いではない。
「きっと喜ばれますよ」
と言えば、嬉しそうにしていた顔が、真剣なものへと変わる。
「……ねぇ、ジン、やはり君のご実家に行きたい」
その言葉に、急激に心が冷めていく。
「貴方に会わせるつもりはありませんので。諦めてください」
きっぱりと断る。それでも諦めないのがアンセルムだ。しつこく言われるかと思いきや、
「そう、だよね」
苦笑いを浮かべて、呆気ないほど簡単に引き下がった。
何か様子がおかしい。
具合でも悪いのだろうかと手を伸ばすが、それを避けられてしまう。
「シオン、チヒロ、宿に行こうか」
「はい」
その様子を見ていた二人も心配そうにアンセルムを見ている。
いつもなら心配しようものならそれをよいことに甘えてくるのに。こんなことは初めてで、ただ驚くばかりだった。
次の日、アンセルムはいつもの彼で、おはようのハグからはじまり、腕に腕を絡ませて甘えだす。まるで昨日のことが嘘のように彼は元気だった。
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