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(4)
海は荒れること無く、旅は順調に進んでいく。このぶんなら2・3日のうちにアクトレアに着くだろう。
さて、そろそろ彼が来る。
アンセルムから、少し時間をくれないかと言われて。いつもなら断る所だが、少し様子がおかしいのが気になって了承した。
船長室へときたアンセルムを中へと入れる。
「時間をくれてありがとう」
嬉しそうに微笑み、仁の向かいの席に座る。
「アンセルム様もどうですか?」
飲みかけのワインボトルを掲げると、頂こうと頷いた。
ワイングラスを目の前に置きワインを注ぎ入れる。
それを手に取り一口含んだ後。
「私もそろそろ、金持ちの貴族と婚姻をすることになりそうだ」
今までは王太子のサポートという名目があった。だから話を持ち込まれても断ることが出来たのだ。
だが、もう王太子が王になればお役御免となり、大臣が決めた相手と婚姻を結ぶことになることだろうという。
「だからね、この旅を終えたら、二度とジンの邪魔はしないよ」
仁は今まで自信に満ち溢れたアンセルムしか見たことがなかった。
だから余計に驚いた。彼の目にあきらめの色が見えるから。
「そう、ですか」
今までどれだけ冷たく接してもめげなかった。散々迷惑をかけておいて幕を引くというのか。
胸がモヤモヤとする。せいせいしますと憎まれ口を叩く。
「ふふ、結局、君の心を手に入れることは出来なかったね」
残念だよと無理をして笑う。
「恋をする素晴らしさを知ったり、胃袋を掴もうと料理を覚えたり……。君と出会い、一人の男として楽しい時間を過ごすことができたよ。ジン、いままでありがとう」
そう微笑んでワインを飲み干すと、御馳走様でしたと席を立つ。
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