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「てめぇ、なんてことを」
わなわなと肩を震わせながらアンセルムを指さす。恥ずかしさと怒りで顔が熱い。
「私の舌で君をもっと気持ちよくしてあげるよ?」
そんな仁に対し、爽やかな笑顔を浮かべてとんでもないことを口にする。
その瞬間、仁の中で何かがぷつりと切れる音がした。
アンセルムの腕をつかむと引っ張って陸へと降りていく。
仁との一夜を思い浮かべているのだろう、喜びに満ちた顔をするアンセルムに、
「さっさと城に帰れ、このエロ王子!!」
と迎えの馬車の前まで連れて行き、迎えの騎士に引き渡した。
その言葉に、目が点となる騎士とアンセルム、そして笑いが止まらないとばかりに船乗りたちが見ていた。
「ジン、そんなぁ」
縋るように手を伸ばしながら涙目を浮かべるアンセルムに、仁はその手を払い除けて言い放つ。
「きちんと王に俺の元に来る許可を貰って来てください。そうしたら、あの時の続きをさせてあげます」
「絶対だよ、ジン!」
ぎゅっと手を握りしめられ興奮気味に話すアンセルムに、仁はそんな彼に若干引きながらも頷く。
「よし、善は急げだ。皆、急いで帰ろう」
アンセルムは、また後でねとウィンクした後、馬車に乗り込んだ。
帰っていくアンセルムを見送った後、仁は脱力し座り込む。
「仁、とうとうチェックメイトだね」
と、智広が楽しそうに仁の心臓を打ち抜くような仕草をする。
「……はやまったかな、俺。これからのことを考えると気が重くてしょうがねぇや」
「でも僕は正直、嬉しいんだ。昔から二人のことを見ていたからね」
幸せになってねと肩を叩かれ、仁はがっくりと項垂れる。
きっとアンセルムに振り回されることになるのだろうなと、面倒だがしかたがないと思えるほど、仁の中でアンセルムの存在は大きくなっていた。
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