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(5)※
きっとアンセルムの事だから自分を押し通し、すぐに仁の元へと来るのだろう。
すぐに家は騒がしくなるのだろうなと、口元を綻ばす。
自分の心を素直に認めてしまってからは、静かな日々に物足りなさを感じるようになっていた。
「はやく家にこいよ」
そうして待ち続けて、一日、また一日と過ぎていく。
しかも、連絡すらない事に、アンセルムの身に何かあったかと心配になってくる。
シオンに連絡をして確かめて貰おう、そう思い席を立つが、もしも別の理由だったらと思い直して椅子に腰を下ろす。
待つことがこんなに辛い事だったなんて。今まで、船から戻る自分を待ち続けてきたアンセルムはどういう思いだったのだろう。
そんな相手を、仁はずっと冷たくあしらってきたのだ。
今更だが、どうして優しくできなかったのかと気持ちが落ちこむ。
「アンセルム、早く約束したことをやりに来い」
抱きしめて、温もりを感じたい。そしてアンセルムの作った美味しい食事を食べながら一緒に話をしよう。
そしてベッドでこの前の続きをやらせてやる。
「俺を、一人にしておくな」
伴侶として迎えてやるから。
ぎぃ、とドアが軋む音共に開かれ、そこには眩しいばかりに笑顔が輝くアンセルムの姿がある。
「一人にしておいてごめんね、ジン」
なんてタイミングで現れるのだろう。
会えた嬉しさ、弱音をはいていた自分に対する羞恥心、それが全部まじりあって複雑な感情となる。
「王子、タイミングが悪すぎますよ」
そう口にするなり、仁はアンセルムを強く抱きしめていた。
「えぇ? タイミングが良かったの間違いじゃないの」
弱音をはく所に居合わせたアンセルムにとってはそうかもしれないが、仁としては恥ずかしいだけだ。
「貴方は無駄に存在感がありすぎるから、勘違いしてしまっただけです」
「ふふ、そっか、ジンは私の事をそんなに想っていてくれたんだ」
仁の本当の気持ちは見通されているのだ。
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