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智広はまだ自分の船はない。それ故に父親の船に同乗して商いを学び、仁は船乗りとして色々と学んでいた。
そんなある日の事、王族の者が船に乗り込むことになった。
第三王子であるアンセルムと、彼の遊び相手であるシオンを智広から紹介される。
シオンとは智広を通して既に顔見知りであったが、アンセルムと会うのは初めてだ。
失礼の無いように気をつけながら挨拶をする。
「旭仁と申します。ジンとお呼びください」
「私はアンセルム。宜しくね、ジン」
と、手を握りしめられてその甲に唇を近づける。
前に智広の姉が男の人にそうされているのを見たことがあり、その時にこのような挨拶の仕方は女性に対してするものだと教えて貰った。
仁が何も知らないと思い、からかわれているのではないだろうか。
その証拠に、アンセルムの表情がやたらと楽しそうで、仁は羞恥から顔を真っ赤に染めて肩を震わせる。
「王子」
智広がやれやれといった表情でアンセルムをたしなめる。
「だって、チヒロもシオンも可愛い反応を見せてくれなくなってしまったからねぇ。ジンは思った通りの反応をみせてくれたよ」
可愛いねと微笑むアンセルムにを仁は睨みつける。
そんなくだらない理由であんな真似をしたのかと思うと腹が立つ。
仁にはまだ、それを受け流すだけの度量は備わってなかった。
「仕事がありますので、失礼しますッ」
怒りに震えながらアンセルムに頭を下げて、この場を後にしようとすれば。
「ふふふ、またね」
笑いながらアンセルムが仁に向かってひらひらと手を振る。
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