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完全に馬鹿にされた。
アンセルム達が見えなくなる所まで来た仁は、悔しさのあまりに八つ当たりと近くにあった樽をおもいきり蹴とばすが、思いのほか堅い樽に足の指を痛めて涙目になりながらうずくまる。
「全部あいつのせいだ!!」
自分が痛い目にあったのも全部アンセルムのせい。
ただの船乗りなのだ。滅多に会うことはないだろうが、仁は出来れば二度と会いたくないと思う。
だが、その思いは簡単に打ち砕かれることとなった。
アンセルムは仁の何が気に入ったのか、暇さえあれば会いに来るようになった。
仁は船の仕事を覚えようと一生懸命で、休憩をとることも忘れて働く。
真面目なのは良いが休息をとるのも大切だと心配した周りの大人が、アンセルムが来るとお相手をして差し上げろと、お茶代を持たされて無理やりに街へ行かされる。
仁にとってアンセルムは迷惑な存在でしかない。
アンセルムの存在を拒否するように黙っていても、かまうことなく勝手に話している。
聞きたくもないのに耳に勝手に入ってきて。意外とアンセルムが話す話は面白く。つい、反応を見せてしまった時には嬉しそうな顔を見せる。
根は良い奴なのだと解っている。だが、たまにからかってくるからムカつくのだ。
自分と仲良くしたいと近づこうとするアンセルムに対し、仁は常に一線を引いて接する。自分のテリトリー内に入り込ませたくない。だが、彼はそれに気が付いていて乗り越えようしてくるのだ。
二人はそんな攻防戦を繰りひろげつつ、十二年の月日がたった。
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