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(2)
表通りは商売が盛んで活気にあふれており、少し細い路地へとはいりこむとその喧騒が嘘のように静かな場所に出る。そこにある小さな庭付きの一軒家が仁の家だ。
我が家が見えてきてホッとしたのもつかの間。
「あぁ、またか」
家の入口付近に騎士の姿を見つけて、仁は額に手をやり頭を振る。すると向こうも仁に気が付き、おかえりなさいと声を掛けてくる。
「どうも、ご苦労様です」
すっかり顔見知りになった騎士に手をあげて挨拶をする。
「いえ。中でアンセルム様がお待ちです」
どうぞと家のドアを開けてくれる。
いや、此処は俺の家なんですけどね、なんて心の中で騎士にぼやいていれば、
「ジン、お帰り」
と、エプロン姿のアンセルムが仁を出迎える。
その姿を見た途端、仁は肩を落としながら大きなため息をつく。
勝手に家の中に入らないで欲しいとお願いしているのだが、毎度、毎度、言いつけを守らない。
怒るだけ損だといつも諦めてしまう自分も悪いのだが、この男にはいくら言っても無駄なのだ。
相手にしたくないからアンセルムを無視して寝室へ向かおうとすれば、
「ジン、お腹すいたでしょう? 食事、用意してあるよ」
とテーブルを指さす。そこにはテーブルいっぱいに料理が並んでいた。
アンセルムは王子であるが家事が得意だ。しかもそれは仁の為に覚えたと言うのだから健気なことだ。
正直、腹はものすごぐ空いている。今にも腹が鳴りそうなくらいだ。
だが、それを見通しての行為に、素直にアンセルムの前で食事を摂る気になれない。
「王子、大変申し訳ありませんが、疲れているのでおかえり願えますか?」
ひとまずアンセルムを家から追い出す。その作戦に切り替えて仁は疲れたふりをしてみせる。
「久しぶりに会えたというのにもう帰れと言うの? 冷たいなジンは」
「本当に、大変申し訳ありません」
大袈裟にそう言ってやって、アンセルムの背中を押してドアを開ける。
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