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「お帰りですか?」
と、騎士がアンセルムと見て言い、仁は騎士へと手土産という賄賂を渡す。
「おおっ、ワノコクのお酒ですか!」
南の騎士達に和ノ國の酒はすこぶる評判が良く、和ノ國へと立ち寄った時には必ず彼らの為に酒を買って帰るのだ。
「む、彼ばかり贈り物をするなんてズルい! 私にはないの?」
「貴方に贈る品などありませんよ。これは貴方に振り回されて迷惑している騎士達へ、せめてものお詫びのつもりですから」
「何それ。……じゃぁ良いよ、別のモノを貰うから」
頬を両手でつかまれてキスをしようとするアンセルムに、手を差し込んでそれを邪魔する。
「やめてください」
「えぇっ、気持ち良くするよ?」
と、再びキスをしようとする彼に、
「王子、お城に帰りますよ」
騎士が腕を掴んでそれを止めた。
「なっ、無粋な真似を」
「それではアサヒ殿」
振り回されている王子よりも、差し入れをくれる船乗り。失礼しますと頭を下げて、騎士はアンセルムを引っ張るように歩き出した。
王子に対する扱いではないが、そうでもしないといつまでも帰ろうとしないからだ。
「え、嫌だ、ジン、ジン――!」
仁の方に必死に手を伸ばすアンセルムに、それを無視して家の中へと入る。
一人になるとやっと落ち着いた。
テーブルに並べられた料理には罪がないので仁は有りがたくそれを食することにする。
アンセルムが作る料理はお世辞抜きに美味い。これを毎日食べたら完全に胃袋を掴まれてしまいそうだ。
健気で一途で料理上手。アンセルムが女だったら惚れていたかもしれない。
そう、女ならだ。
仁の国でも同性同士で恋仲になる者もいる。偏見など無いが、自分は恋愛するなら女が良い。
子供をたくさん作って笑いの絶えない家庭を作りたい。そんな夢があるのだ。
「それにしても美味ぇなぁ……」
仁の好物ばかり並べてあるのがムカつく。
もう少しだけ優しくしてやればよかったかもしれない。
だがすぐにその考えを打ち消す。きっと調子に乗るだろう。
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