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そう、これはきっと、ここまでしてくれた相手に対して、つい、そういう気持ちになっただけ。
「今日だけ特別です」
だから意味は無いのだと釘をさす。
「はぁい。じゃぁ、頂きます」
席を立ち、皿をとりお米をよそう。
箸を使いオカズを小皿に取り分ける。その綺麗な箸の使い方に驚く。
「箸の使い方も学ぶのですか?」
「うん。和ノ國のように箸を使う国もあるからね。一通り覚えさせられたよ」
流石、王族。
「箸を綺麗に持つ所からはじめて、調理前の豆を何粒も掴まされたよ」
あれは地獄だったなと、珍しくげんなりとした表情を見せる。
アンセルムにとっては余程つらい思い出なのかもしれない。
「ははっ、そいつは大変でしたね。豆、掴みにくかったでしょう?」
「うん。でも、役に立った」
無邪気な表情で笑う。胸が高鳴り、仁はソレを誤魔化すようにご飯を口の中へとかっ込む。
「王子、さっさと食べて帰ってくださいね」
いつものようにつれない態度をとれば、アンセルムが不満そうに声を上げる。
「食事は良く噛まないと駄目だよ?」
そんなにがっついて食べなくてもという。
「俺は結構、忙しいんですッ」
本当は忙しくなんてないのだが、アンセルムの見せた表情がやけに気になり、仁の気持ちは落ち着かない。
忙しいふりをし、帰りたくないと駄々をこねるアンセルムを騎士に頼んで連れて帰ってもらう。
一人になったら落ち着くと思っていたのに、今だ落ち着く様子がない。
「なんなんだよ!」
別にアンセルムが泣こうが笑おうが気になったことなんてないのに。
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