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(3)
船に乗り異国と商売をし、稼いだ金で珍しい品を買って帰る。
しかも和ノ國の品が流行しており、美しい織物は貴族の間で人気が高い。
小早川の親戚が和ノ國で店を開いている為、良い品が手に入りやすく、それを買い求めようと商会に声が掛かり、とても忙しい日々を送っている。
今日も和ノ國へと品物を仕入れに行く所で、智広の隣に立つ男を見た瞬間に仁の眉間にシワがよる。
「おい、智広、船長は俺だよな?」
「うん、そうだよ」
「王子が乗船するなんて聞いてねぇぞ」
ひそひそと和ノ國の言葉で智広に話しかければ、主は僕だよねと言い返される。
「王子のお願いを無碍にはできないでしょう?」
相手はこの国の王族だよと言われ、仁はグッと喉に声を詰まらせる。
アンセルムの見た目は確かに王子だ。
だが、料理を作ったり、洗濯物を洗ったりしながら街の女たちと楽しくおしゃべりをしたりと、あまりに王族らしからぬことをするものだから、改めて言われてそうだったと、本来はそんな態度をとっていい相手ではなかったのだ。
「アンセルム王子はね、王太子のお誕生日の祝いの品を、自ら選んで贈りたいんだって。ねぇ、兄を想う弟の気持ちを汲んであげて」
仕事の邪魔はさせないからと、智広のその言葉を信じることにした。
それから和ノ國につくまで、天気も良く運航は順調。しかも拍子抜けするぐらいに何事もなかった。アンセルムに邪魔されることもなかった。
しかも王子らしい振る舞いを見せ、仁は驚いた位だ。
陸に降りる準備があるからと智広の案内でアンセルムは宿へと向かったはずだ。
なのに樽に寄りかかる和服姿のアンセルムの姿を見つけ、何故ここにいるのかと彼の傍へと向かう。
「アンセルム様、お供の者は?」
「ん、さぁ?」
とぼけた顔をしてあちらの方角へと顔を向ける。
「……確か鶴屋に泊まってますよね。行きますよ」
腕を掴み鶴屋へと向かおうとすれば、
「折角、着物を着てジンと町をぶらぶらしようと思ったのに」
と唇を尖らせる。
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