すき、きらい、きらい、すき

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「お前なんか!」「アンタなんか!」    何度目のやり取りなのか分からない、いや、数えたくもないのだが、とにかくそのいつものやり取りに俺は耳を塞いだ。 「大っ嫌い!!」  大学のお昼時の食堂は色んな音で溢れ返っているというのに、2人の息の合ったその声はどんな喧騒すらも搔き消す勢いで、それはもう傍迷惑なぐらいによく響いた。テーブルの花瓶に生けてあった、黄色のマリーゴールドが悲しそうに花弁を揺らした。  喧嘩の理由? はて何だったか。  いつも色んな事が簡単に引き金になる。例えば声が煩いとか、ちょっと遅れたとか、「これ美味しい」「いやマズイ」とか、本当しょうもない事ばかり。  一瞬シーンとするも、顔を見れば、あぁまたあいつらかとみんなの興味はアッサリと引いて行く。  赤みを帯びたこの2人の顔はもう見飽きたんだが。何故当人同士は飽きないのか、不思議だ。同じものばかり食べ続けられるタイプか。 「もういい。私、先行くから」  これもいつもの事で、先に里佳子が俺らから離れる。ズンズンという可愛くない擬音が聞こえてきそうな背中に苦笑する。  彼女はいわゆるクール美人なのだが、男と公衆の面前で堂々と喧嘩するもんだから構内の男は「ああ……綺麗ではあるけど」といった風に寄り付かない。  慰めようとして話しかけた男も居たが、殺気立つ目で睨まれたそうな。あぁ、勿体ない。
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