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伝承
世界から、『空』が消えた。
僕がそのことに気づいたのは、幼なじみのセツナが、学校からの帰り道にこっそりと教えてくれたからだ。
彼女は言った。
かつて僕らの頭上には空と呼ばれるものがあって、そこには太陽という光の塊が、地上にあるあらゆるものを照らしてくれていたという。
「でも空も太陽も三百年前に消えちゃったって、図書室で見つけた本に書いてたんだよ」
彼女は少し得意げに言った。僕はその言葉に驚いた。
なぜなら、彼女は目が見えないはずだから。
いや、彼女だけじゃない。
もう人間のほとんどが視力を持っていない。
僕のようなごく一部の人間は、大昔の人たちのように目を使って物を見ることができる。
でも、生まれた時に光を見たことのない人間は、そのまま目が見えなくなってしまうとお母さんから聞いたことがあった。
「どうしてセツナが本を読めたの?」
眉間にぎゅっと皺を寄せて尋ねる僕に、彼女は潤んだ唇をわざとらしくそっと動かす。
「ないしょ」
「なんだよそれ」
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