伝承

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 僕は呆れた口調で言葉を返した。再び前を向くと、真っ暗な視界の中で、足元に散らばる小さな石ころがぼんやりと光っている。 その石がどうして光るのかは知らないけれど、僕らはそれを『天道石(てんどうせき)』と呼んでいた。  暗闇に覆われた世界で、唯一光を放つもの。 この石は貴重なものらしく、他の街に住んでいる人達がよく買いに来るらしい。 王様が住んでいるこの街ではいたるところに落ちているけれど、他のところではまったく無いところもあると聞いた。 その為、そこに暮らす人たちは生まれつき目が見えなくなってしまうのだ。  でも、視力を失った人達は代わりに耳がすごく良い。 実際、セツナは僕が聞き取れないような小さな音を聞くことができるし、音の鳴る場所や角度によって何不自由なく生活を送れている。 十一歳になったばかりの彼女にプレゼントした赤い髪飾りも、セツナは音を頼りに綺麗につけることができたのだ。  これは僕の勝手な想像だけれど、もしセツナの目が見えていたら、彼女は赤色が好きになっていたと思う。 「ねえリンネ! 明日、一緒に図書室に行こうよ」 「え、僕は行かないよ……。それに、図書室はもう使っちゃいけないんだよ」 「えー、せっかくリンネにも空の秘密を教えてあげようと思ったのに……さては、怖いんでしょ?」  セツナがにやりとイタズラっぽい笑みを浮かべる。 僕は彼女のこの笑顔を見ると、少しドキッとする。なぜか、いけないことが始まるような気がして。 「わ、わかったよ……。でも先生のいない時間にしてよね」  僕がそう言うと、今度は白い歯を見せてセツナが笑った。 セツナがこんな顔を見せてくれるのは、幼なじみの僕だけ。 そして僕は、そんな彼女のことが好きだった。 だから、二人っきりで図書室に行く約束も、嫌がるフリをして本当は嬉しかったのだ。  でも……。 結局その約束は、一週間経っても叶うことはなかった。
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