給与計算 誤算『100』

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「…………合わない」  数字が『100』合わない。  もう一度、モニターに写し出した二つのExcelシートを見比べてみる。右のシートの確認用セルに左のシートの数字を値貼り付けする。  が。  やはり、100の誤差は変わらず。  300ものデータを目視で確認するものの、さすがに原因がわからない。  となると、あとは関数を使って左右のデータを比較するしかない。  VLOOKUPとIF関数を使って…………ああ、面倒臭い。 「……はぁ」  思わず溜め息が漏れてしまう。  時計を見ると12:28。  締め切りまで時間がない。  気持ちが焦る。  ピタッと数字が合えば、ここからは余裕の作業となるのに。  この状況がとても恨めしい。 「みのりさん……大丈夫?」  愛さんが横から心配そうに顔を覗かせた。 「数字が合わなくて……」  言い終わらないうちに愛さんは机の下に置いていたバックから--室内は土足厳禁、床にはカーペットが張り巡らされている--チョコレートを取り出しそっと差し出した。 「そういう時は気分転換してね。甘いものでも食べて」  愛さんの優しい心遣いに、モニターを凝視し過ぎてややドライアイの目が潤んでくる。 「愛さん……ありがとうございます」  チョコレートを一粒、口の中に放り込むと、気遣いの優しさが甘さとともに脳を包み込んだ。
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