3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
首切り地蔵
ほんっと人間って最高だよね。超推せる。
神様になって五百年くらい。アタシが神様になったのはなんでか分かんないけど、気が付いたら地蔵やってた。
そんでね、びっくりしたの。
び…………っくりするぐらい、暇!!!!!
たぶんさー、生き物とかってさ、生きるために、やるじゃん?色々。
神様はそれがない。
生まれてすぐは世界中見て回ったり、他の神様に『気をつけること』を聴いたり、結構色々やることあったのよ。こういうことしてないと、嫌なことあったりするからね。推し死なせちゃうとか。
でもさー、せいぜい百年よ。そういう『神様修行』って。
あとはさ、好きにしてていいの。
はぁ!?!?ってなるじゃん!?!?
普通さ、生き物って色々あるじゃん!?目的ってやつが!!生き残りをかけて色々するとか、子孫残すとか!!
神様には無いのよ、それ!!!!
他の神様はさ、雷つかさどってたりとか、五穀豊穣つかさどってたりとかするから、あると思ったのよ、アタシにも。そういう役割って。
ところがね、それって全部『好きでやってる』だけなのよね……。
面白がって雷落としまくってたら雷神って呼ばれるようになっただけ、とか。
作物がもりもり育つのが面白くて、それに神通力使ってたら、農業の神様って呼ばれてた、とか。
まさかの自分探しの結果だょ……。
そんでさ、しばらくアタシも好きかってしてたの。大洪水を起こしてみたり、疫病を流行らせてみたり。
こういうのってさ、見た目には結構インパクトあって楽しいんだけど、なんだかねー。そんなに面白くねーなーって思ってたところで、ね。
祀られちゃったのよ。人間に。
えーって思うじゃん?えーって。何勝手に祀ってんのよ、って。
でもさ、それが思いのほかヤバかったの。マジヤバ。
当時神の間で流行ってたドリンク、お神酒!あれ凄くない!?!?激烈にヤバくない!?!?
うめぇぇぇぇええええー!!!!って感じ!!!!
あとはさ、勝手に舞とかさ、見せてくれたりとか、ちょー楽しいの!!!!
ハマるわ、アレは。祀られんの、チョー楽しい。
いやでもね、極めつけはね。
めっちゃ可愛い幼女が来てさ、ちっこい手を、
そっ…………
と合わせたのよ……。
ヤバい……。
尊い……。
その瞬間さ、なったよね。人間推しに。超見守る。アタシ人間守るわ。もうファンサやばくない?神だわ……。
……そんな風に思って、四百年ぐらい経った。
最初はふわっとスサノなんとかとか呼ばれてたけど、時代が移り変わったり、住む人間の言葉が変わったりして、今は地蔵って呼ばれてる。
昔は大きかったヤシロも今は小さな家になっちゃったけど、仕方ないかなー。災害とか起こすとすぐヤシロって大きくしてもらえるんだけど、推しに迷惑かけられないし。アタシガチファンだから。そんじゃそこらのニワカヒト推しと一緒にされたくないのよね。
「おじぞうさま、今日も天気をありがとうございます」
……ファンサきたー!!!!
ちみっこい手で、毎日お祈りしてくれるこの子が最近の推しメン。おかっぱの、可愛い幼女。はー、癒されるわぁ……。
ホント最近はこの子が来てくれることだけを楽しみにおわしてる。
……んだけどね。
おかしいな、ここ数日あの子、来ないのよね?
ヤバいなー、可愛いし、人攫いにでもあったかな?
うーん、課金して探すかな……。
あ、そうそう。前言ってた神様の注意点なんだけどね。神通力のリミットのことなの。お金が無限にあるわけじゃないように、神様の神通力も無限じゃない。使い切ったからって死ぬわけじゃないんだけど、たとえばさ、推しが命の危機とかの時に課金できないと、めちゃくちゃ後悔するわけじゃん。それは避けていきたいワケ。永遠におわしましてる神たちとしては。永遠に後悔しなきゃいけないからね。だから神通力ってのは、基本的には節約してないといけない。課金はご計画的に、ってこと。
まぁ風邪とか引いたら数日来ないことは良くあることだし、もう少し待
ごっっっっ!!!!
こん、こん、こん……と。アタシの頭が転がった。
……は?はあああああああ!?!?!?!?
どこぞの野郎が、不敬にもアタシの頭を蹴り落としやがった!!!!
赦さぬ、赦さぬぞ!!!!天地開闢以来地上におわします神々の一端と知ってのその不敬、一族郎党皆殺しじゃ!!!!
貴様の村もただで済むと思うまいぞ!!!!
アタシは怒りくるってその男を追いかける。
すると、その男はアタシの頭と引き換えに、大金をもらっていた。
……ヒトどもよ、よくぞやった!!!!褒美にこの世の終わりを見せてやろう!!!!
アタシはゆっくりと天変地異の準備を始める。マジ許さない。推してただけに許せない。とくと目にモノみせ……
「さあ、スミコ、お薬だよ」
……男は、あの幼女に高価な薬を与えていた。
「ごほ、ごほ……おとうちゃん、どうしたの、こんなお金……」
「お前は気にしなくていいんだよ。さあ、早く良くなるんだ。お母さんに続いて、お前までお空に行ってしまったら……うっ……」
「大丈夫よ、おとうちゃん。お地蔵様が、きっと守ってくださるわ……」
…………赦すぅ~~~~~~~~!!!!
えっ何そういうこと!?早く言ってよそういうの!!!!
も~、洪水キャンセルキャンセル!!なんかカオス理論とかでごまかしといて!!!!
とりあえずアタシの頭を買ったバカどもには天罰下すとして、うん、どうすっかな……。
いや今そんな神通力無いし……でもこの子どうみても死の病だしな……。
あー、!!!!課金したいときが使いどき!!!!
ご利益、課金!!!!
…………というワケで、今日もアタシはのんびり地蔵やってる。首も事故にあった盗賊団から取り返して、綺麗な赤い布で繋いでもらった。あのちみっこい綺麗な手で…………ぐふふふふぅえっへっへっへ♡
「お地蔵様、いつもありがとうございます」
綺麗な白無垢がすっと目の前に立った。
「私はこれから初恋の人の元へ嫁いでいきます。これからも、応援していてくださいね」
すっ、とあの幼女はアタシの応援のおかげで、立派にメジャーデビューしたあかし、御札を置いていった。
は~~~~っ、マジ、ヒト尊いわ~~~~!!!!
首切り地蔵のはなし。
(近畿地方に伝わる、治水や病気をつかさどる神様の逸話)
最初のコメントを投稿しよう!