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蝋燭の薄明かりが照らす神楽殿の中、清らかな鈴の音が響き渡っておりました。
磨き抜かれた木目達は薄張りの舞い水を反射しまして、灯り火と共にゆらゆらとその艶を照らせております様は、傍目から見ればなんとも幻想的なことでしょう。
シャン……シャン…………。
そのただ中、一人の巫女が舞っておりました。
彼女は読んで字のごとく、命を削ってそこで舞いを捧げたのです。
一言も声を発さず、一雫の涙も見せずに舞う彼女の姿は、私の見た景色のどんな雄大な山々よりも美しく、そして力強いものでありました。
私はといえば下手(しもて)に小さく作られた高座におりまして、彼女と同じく言の葉を発することなく、ただの無心で金剛鈴を打ち鳴らして居りました。
巫女が舞えるように、彼女の命を守るために、彼女の祈りを天の御神へ渡らすために。
しんと静まり鈴の音だけが聴こえますのは、私の無心故にかもしれません。
ここへ来るまでの境内には、生き物や植物の生きる音が悠々と、日常の通りに聴こえていたのですから。
シャン……ッ!
一層澄んだひと鳴りがしますと、私の意識は不思議な旅を始めました。
心が身体を離れるでもなく、まして鈴を鳴らす腕以外に動いてなどもおりませんのに、私は巫女の見つめる壁を見たのです。
彼女は灯りの届かない舞台の向こう、拝殿の更に奥の壁の木目でも見つめるが如く、その只闇を真剣に見つめておりました。
彼女の舞う一振り一振りは、彼女の想いと命とを乗せて真夏の汗のように彼女から湧き上がり、壁の向こうの闇の向こうのその先の、何か……そう、暖かな光のような何かに向けて、真っ直ぐに向けられているような感覚がしてまいりました。
彼女の集中といいますか、そのエネルギーは凄まじいものでありました。
始めは感嘆しておりました私も、それは徐々に騒めきへとなり、果ては叫び出してしまいそうになったのです。
(いけませぬ!いけませぬ巫女様!そのような舞い方をしては貴女様の御命が保ちませぬ!)
私の心は、いっそ涙し本当に叫んでいたのかもしれません。
けれども彼女は舞い、そしてその日の祈りは終えられたのでした。
あの不思議な光景は気づけば元の風景に戻っておりまして、眼下には舞台。舞いを終えた巫女様の、普段と何ら変わりの無い柔らかな笑顔がそこにしゃなりと佇んでおりました。
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