2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「花魁姉さん、そろそろ…お目見えの時間です。」
禿の声が仲見世に出る刻限を告げる。鏡の前化粧と髪を終えた花魁がそっと、鏡に絹をかける。
一瞬の間
何かを見ないよう花魁は俯いていた。だからほんの一瞬なのだろう?
だが、呼びに来た禿が固まっている。
「何?」
禿が、驚きの顔をしている。それもつかの間
大丈夫、何時もの優しい姉さんに戻っている。大丈夫…何時もの姉さんだ。背中をずっと冷たい汗が伝う。あれは何かのみまちがいなんだ。
「あの…。」
花魁姉さんは先ほど鏡で禿を睨んでいたのと同じ顔をすると
「今見たこと、旦那さんの前で言ったら死ね。」
そう言うと、にっこり微笑んで旦那さんの居る部屋へと上がって行った。可愛がっていた花魁が情死したので、別の廓に乗り換えた御新規さんだそうな。色を失った禿の初めての相手がその男だそうな…年期を終えた花魁は、店に上客を残したと誉められたが、幸せになったかどうか?男が情死を誘った手紙を禿が潰していたのだから。
完
最初のコメントを投稿しよう!