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酔典 芍薬の花を摘む天使
芍薬を摘んだ少女を、憐れむように天使が眺めていた。「私なら、こんなに酷いことはしないのに」そう思った天使は静かに地上に舞い降り、芍薬の花弁に涙が零れた。
その美しき花を人びとに知らしめることに思い至らず、天使は集めた花弁を包み込み持ち去ろうとした。ただソファリスとエトヴィスがその心を見透かしていた。
途中、湖のなかにソファリスの影を見つけて、天使は湖畔に舞い降りた。
「その花を愛でたかったのだね」ソファリスの問に、はい、と答える。
「そして、手に入れようとしたのだね」また、はい、と答える。
「水面を見てご覧」エトヴィスの命じるままに水面を覗き込む。完璧なまでに美しい芍薬の花と、身を落した一羽の烏との後ろに、今の今まで背負っていた天使の羽根だけが儚く消えた。
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