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酔醒教 幹部の日誌
口癖は、「でも、地球、なくなるじゃん」だった。決して退廃的にはならないけれど、いずれなくなる地球の上で自分だけ見つめる彼女を飽きることなく見つめていた。
暫くすると私の他にもファンができた。頭の良い男の子だった。彼は心底彼女に陶酔していたし、それを度々言葉にした。
「すごいわあ」とか「尊敬する」とか、他愛ない褒め言葉の裏に私は本物の陶酔を見てとっていた。
その頃から彼女は“自己愛”に言及するようになった。自らのプライドとそれゆえの優しさに自覚的になった。そのささやかな自己分析を私は見守っていた。
少しずつファンは増えた。「気まぐれで可愛い」とか「言葉遣いが好き」とか理由は様々だったけれど、彼らが彼女の自己陶酔に陶酔しているだけだと私は知っていた。
彼女を慕う人は増えたけれど、彼女は必要以上に驕らなかった。彼女の芯がぶれなかったというよりは、彼女の陶酔に相応しい信者がついたというだけだろう。
彼女の口癖が増えた。騙されてると楽なんだよ、と。そして、それでも騙されたくないんだ、と。彼女が私のいない場所をあまりにも真っ直ぐ見つめたから、それ以上なにも訊けなかった。
彼女の「言葉」に惹かれた者も沢山いた。傾倒でも心酔でも崇拝でもなく陶酔を使う彼女に、言葉に拘らないわけがなかった。新たな言語こそ作らなかったが、その言葉遣いは一つの言語体系と言ってよかったと思う。
語彙が多いよね、と言われる度に彼女はこう答えた。
「理解語彙と使用語彙がほぼ一緒なだけ。ただの中二病だよ」
その微笑みが自信に裏打ちされているから、彼女を慕ってやまない人がまた増える。
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