酔醒教 幹部の日誌

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酔醒教 幹部の日誌

 食事など日常生活に関する細々とした規定は好まなかった。彼女はもっともっと、広いところで支配するべきなのだ。だから、この服を着ろと決める代わりに、心を屈してまで好まぬ服を着るなと教えた。  彼女は暦を作り始めた。 「これはね。ちょっとやってみたかったの。違う暦で生きるとね、長生きできるんだ」  いたずらっ子みたいに笑う親友の横顔を、左側からぼうっと眺める。「科学には反したくないから。一年は三百六十五日でいいの」  深く考えずになるほど、と頷く。  「一週間は、私には長すぎる」 そう言われると、そうかもしれない。  「それからこの世には、太陽の民と月の民がいるよね」 彼女がまた笑う。その度に私の心を掴む。これは彼女が好んで使う表現で、ただの朝型夜型の話だ。 「同じ規格で生きていくのは、無理があるよ」  親友は、いつにも増して嬉しそうだった。  できた、と言って見せてくれたのは三日をサイクルにしたカレンダーだった。二日が平日、一日が休日だ。三日は別に週という括りではないのだそうだ。ただ、そのサイクルで生きていくだけ。彼女は月の民なのでそちらをベースにしてある。これは人によって変わるらしい。七日間で生きていきたい月の民も、五日サイクルで暮らしたい太陽の民も、言うなれば「カスタム」してしまえば良いらしい。  誕生日にあたる日は祝日なのだそうだ。もちろん世界が祝日になるわけではない。太陽暦と併用して良くて、“こちら”の祝日は心の持ちようが変わるというだけだ。  「全部、自由でいいんだ。外側を完全に私に任せて、心は自由。好きなだけ思って、責任は私。これが一番楽なの」  そこに信者第一号の彼がやって来て、対抗する気もないまま異議を唱えた。 「曜日の名前とか、サイクルの数とか、本当に各人バラバラでいいの」 私も答えに耳を攲てる。彼女の心の中を覗きたいから。  「いいの。私がするのは世界を開くことと、心を預ける場所を創ることだから」  なんだか難しいな、と思いながら話を聞く時間の、全てが心地いい。
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