酔典 芍薬の花を摘む少女

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酔典 芍薬の花を摘む少女

 名も伝えられていないような平凡な少女がいた。花を愛でる心の持ち主であった。  ある日少女は芍薬の花に出会った。それは他のどんな花よりも彼女の心を捉えて離さなかった。それまで愛でるだけだった少女は抑えきれずにその芍薬を摘んだ。  彼女は吸い寄せられるように花弁に指を預けた。一枚、一枚と手をかけ、仄かな朱は生気を失っていった。最期の一枚になった時、少女ははたと気づき手を止め、慈しむように指を離した。  その瞬間エトヴィスの怒りに触れ、少女は深い深い永久の眠りに落ちた。夢の中だけを彷徨いながら、軈てその身体を以て大地となし芍薬の糧となった。エトヴィスがその夢を覗くと、芍薬は粉々に砕け散っていたという。
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