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妻と女医
「はいどうも。すいませんねお待たせして」
「あ、女医さんだったんですね」
「勝手に男性って思ってたでしょ。いやいや気にしないで」
「あの、紹介を受けてですね」
「うん孵化器のでしょ。聞いてる聞いてる」
「孵化器っていうんですね。卵からかえる、の孵化」
「うん、卵じゃないんだけど、卵のようにも見えるでしょこれ」
「あ、これですか、思ってたより大きい」
「コンパクトにすればいいってもんでもないからね」
「あの、私もこれで子を産みたいなと思って。いや、産むって言っていいか分からないですけど」
「正確に表現するなら、作る、なんだけどね。まだ誤解を招くよね。産むでいいよ産むで」
「もう一人産んでるんですけどね自前で。これがもう苦痛でしんどくて」
「わかるわかる。私もそう。だからこれ作ったんだもん」
「あ、そうなんですか」
「そうよ。気分悪くなったり痛くなったりしてさ、しかもそれがいつ来るか分からないでしょ、そんなのが十か月続くなんて」
「ですよね」
「今まではそれでも、それを乗り越えないことには子が産めないからしょうがなく我慢してみんなお腹を大きくしてきたわけだけどさ」
「はい」
「そろそろこういう選択肢ができてもいいんじゃないか、と思ったわけ。いや、むしろ私が欲しかった」
「私もです」
「でも誰も作ってくれない。だから作ったのね自分で」
「作れるもんなんですね」
「他の人は知らんけど、なんせ私だからね。そしてちゃんと実験もしてるのよ。二人目はこれで作った」
「すぐに成功したんですか」
「さすがにそうはいかなかった。育ちきれないことが何回かあってね」
「……そうだったんですね」
「自分の腹を痛めないと愛情が持てない、とかいうけどさ、つらいに決まってるじゃない、ねぇ。でもそのたびに改善を加えて今に至るわけ」
「先生、ぜひお願いしたいです。手続はどうしたらいいですかっ」
「はいはい。まずはね、夫さんに話をしてきて」
「え、必要ありますか」
「あるある。そもそも夫婦とも二人目を欲しいと思ってるの」
「私は欲しいです。夫も、思ってる、と思います」
「思います、じゃだめ。話し合って、気持ちを揃えて。二人でここに来てもらって面談もするからね私が」
「はぁ」
「なかなか難航するかもしれないし」
「そんなことないと思いますけど」
「うん、わからない。まずは話し合って、結果を聞かせてよ」
「わかりました。でも先生、その孵化器、まだ一台しかないんですよね」
「そうだね」
「予約してもいいですか。先に誰かに使われたら、十か月使えないんでしょう」
「わかったわかった。空けておくから」
「お願いします」
「またおいで」
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