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第五通:めざめ
慶くん、お久しぶりです。
立冬を過ぎて朝晩の冷え込みが厳しくなってきました。
例年のことですが十一月は一気に気温が下がり、この季節特有の乾燥した空気がより一層寒さを感じさせます。
これからもっと寒くなるのは知っているので、あまり厚着はしないようにしているのですが、今年はいつもより早く冬物のコートを出しました。
最近少しナーバスになっているのかもしれません。先週、講師同士の会議があり今月から特進コースを作ると塾長から説明がありました。
元々少ない人数なのにさらに特進に絞るなんてと思いましたが、高校受験生で有名大学に合格できるレベルが数名いるので数学と英語を集中的にやりたいというのが塾長の意向でした。
特進コースを受けるのは四名のみです。地元の眼科の娘が一名、歯医者さんの息子が一名、高校教師の娘が一名。そしてこの町では数名しか登録がない弁護士の息子が一名。
一名を除いては、特進コースの生徒は真剣に講義に取組んでくれています。
弁護士の息子、ここでは仮に涼くんとします。涼くんにとって私の英語の特別講義は価値がないのだと思います。私の説明を邪魔したりするような事はありませんでしたが、演習問題を解いている以外はいつも上の空という感じです。ペンを取らずたまに私をじっと見つめてる時もあります。
あなたの講義は仕方なく受けているんだ。と目で言っているような気がしていつもより神経を使います。
この不安は何から来るのだろうと考えていたのですが、最近答えがわかったような気がします。
私は彼を異性として意識しているんだと。
端正な顔立ちで背は180cm以上あり肩幅がしっかりしている彼は、もう見た目は立派な男性です。同じ塾の女子生徒は彼の姿を見つけてはしゃいでいます。
私は講師という立場で働きに来ているんだからしっかりしなくては。
慶くんに手紙を書いたら少し気分が落ち着きました。
またお便り致します。
平成28年11月8日
杉崎ほのか
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