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新たな人生
■新たな人生
・令和元年の初夏、私は今、ある企業の面接試験を受けているところだ。
面接官『フ~ン・・約3年前ですよね・・勿体ないですね、どうして辞められたのですか?』
私「私から辞めたのではなく、自由契約になったんです」
『自由契約って、球団から申し渡されるアレですか?』
「そうです、俗に言う解雇ですよ」
『そうですか、この業界では簡単に解雇が言い渡されるのですね・・』
「戦力にならないと、球団にとってはロスになるのでしょ・・ここで私が球団の立場を代弁するのもおかしいですよね」
・私は入団以来の7年間、或るプロ野球球団で育成選手から支配下選手契約を経て、一軍と二軍を行ったり来たりしていた。
しかも一軍のレギュラー出場は数えるほどしか無く、今も私が提出している履歴書を見ることでしか誰も、私がプロ野球選手であったことを知る由もない。
『私どもの会社では、政府が定めた『労働基準法』と言う法律に基づいた雇用制度を確立しています、従って既に従事頂いております従業員さんには安心して働いてもらっております』
「いや~凄いですね・・それなら、もしも私が仕事で失敗をしたとしても、直ちに解雇される心配などしなくても良いと言うことですか?」
『内容にもよりますが・・過去の案件では、従事する者、全員の責任と言うことで、ミスをした個人を攻めることなど、殆どありません・・
その代わりと言っては何ですが、ある仕事で個人が成果を成しえた場合でも、誰がではなく、みんなが、みんなで称えあうことになります』
「素晴らしい会社ですね・・」
『プロ野球でもそうじゃないですか? 誰かがホームランを打つと、みんな笑顔でハイタッチしているじゃないですか・・あれと同じですよ』
「あれは、一種のパフォーマンスであって、心からそのヒーローを祝福している者は誰も居ないと思います・・もし居たとしても、その選手たちが、そもそも親しい間柄であったとか・・そんな処ですよね」
『どうして、素直に祝福して上げられないのですかね・・チームの勝利に貢献したことだし、あなただって、負けるよりチームが勝つ方が楽しくありませんか?』
・試験管は、急に説教じみた言葉使いになった・・私、何か言いました?
「会社の場合は、会社の業績が上がれば、多くの社員が潤いますが、プロ野球選手は違うのですよ・・」
『どう違うのですか?』
「せっかく一軍に上がってきても、滅多にレギュラーで出場できない選手は、レギュラーを務めているライバルが、怪我するのを待ち望んでいるのです・・それが本音です」
『厳しい世界ですね・・ひたすら相手が落ちるのを待ち続けるなんて、とても悲しい光景ですよね・・
このようなお話・・できればあなたの妄想であってほしいですね』
「いいえ、これは妄想なんかではありません。入団当初なら〈まだまだ、チャンスはこれからもある〉なんて余裕でゴマカシていられるんですがね・・家庭を持ったりすると、マジで焦るんです・・こんな選手の気持ち・・分かっていただけます?」
『目前に居られる、あなたの立場になれば、分からないでもないですが・・
私だったら、ライバルが落ちてくるのを待つのではなく、ライバルを追い越すことにもっと努力しますよね・・』
「 “努力” ですよね・・私もそう思いました、だから冬のキャンプは勿論、開幕直後、二軍にいるときも、人一倍、練習はしたつもりです・・でもね・・」
『でも?‥でもどうしたのですか』
「努力だけではだめだと感じたことがこれまで現実に有りました・・
ある試合で、うちがチャンスになったときです、私は初めてコーチに声を掛けられたのです」
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