2.レベッカ・ゾフィア・マリカ

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2.レベッカ・ゾフィア・マリカ

「ただいま!パパ、ママ、お祖母ちゃん!元気にしていたかしら?」  アンネはわが家に戻るや否や、元気よく声をかける。 「あらおかえり、アンネ。パパとママも元気だよ」彼女の祖母が元気そうに応える。「あ、そうそう!レベッカさんとゾフィアさん、それにマリカさんも、幼馴染みの貴方の到着を、今か今かと待っていたわよ。さあ、お祖母ちゃんにパパとママが、キルシュパイとクッキーを焼いておいたから、みんなでお上がりなさいな」 「久しぶりに、お祖母ちゃんご自慢のパイにありつけるのね…。それに、みんなにも1年ぶりに会うから楽しみだな~」  アンネは逸る気持ちを抑えながら、南側に面した家の庭へと向かう。 「みんな!久しぶりね!!」  アンネは、一足先に庭でくつろいで思い出話に興じていた少女たちに、声をかける。 「久しぶりですわ、アンネさん。わたくしも待ちくたびれていましたの」  ユダヤ人のレベッカが、上品な感じで彼女に会釈をする。 「久しぶり~、アンネちゃん。あたしも元気にしていたよ!」  ポーランド人のゾフィアが、快活に応える。 「久しぶりだな、アンネ。アタイもあんたに逢いたかったよ」  ロマ人のマリカが、くだけた感じで挨拶をする。  アンネ・レベッカ・ゾフィア・マリカの少女四人が、久しぶりの思い出話に花を咲かせている最中、このお茶会のホストファミリーであるアンネの祖母が、ワゴンにキルシュパイや代用ショコラを練りこんだクッキー、それにタンポポを原料とする代用コーヒーを注いだポットを載せて、庭に来た。 「さあ、この家ご自慢のキルシュパイとクッキーが焼きあがったよ。みんなもたんとお上がりなさい。アンネもウチのキルシュパイが、幼い頃から大好きでねえ…。その上に代用ショコラのクッキーも焼いてみたの。まあ、ウチではクッキーを滅多に焼かないから、お祖母ちゃんもあんまり自信がないけど、ともあれ、アンネの友達のみんなにも味わってもらいたいのよ」 「ありがとう、お祖母ちゃん。お祖母ちゃんも元気たっぷりだから、長生きしそうね。それじゃ、みんなでキルシュパイをいただきましょう」 「そうそう、アンネ、貴方が留守にしている最中、先月の15日に、この町にAMHAENG-EOSAが飛来したのよ。突然のことだから、お祖母ちゃんもビックリしたわ」 「へえ…。AMHAEN-EOSAが、この町に来たんだ…」  AMHAEN-EOSA――飛行機能を持ち、旧枢軸国の外から飛来するこのロボットの名称が、何の略称なのかは誰にも分からない。しかし、球状の形態から人間型の形態にトランスフォームする、胸部に三頭のウマのレリーフが施されたこのロボットは、不定期に旧ドイツ国内・オーストリア・イタリア等の市町村に出向いては、連合国の禁じたテクノロジーの研究物・開発物を捜査し、場合によってはそれらを押収・関係者を処罰する権限を持ち合わせていることは確かである。「彼ら」が禁じなかったテクノロジーは、「木炭自動車」「電報」「鉱石ラジオ」等、ほんのわずかなものでしかない。  伝説によると1000年前、「ゲンシリョク」という謎のテクノロジーを開発した「ファウスト」なる科学者は、それが判明した途端に関係者や家族もろとも弁解する余地すら与えられずに、AMHAEN-EOSAによって処刑されたという。AMHAEN-EOSAは、それだけの権限を有している。 「さあ、邪魔な老人はこれで失礼して、あとは女の子4人で仲良くワイワイと思い出話に花を咲かせましょう!」  お祖母さんはそう言い残すとワゴンを押して家の中に戻る。お祖母さんがテーブルに並べてくれた代用コーヒーと代用ショコラのクッキー、それにキルシュパイを見て、他の3人も声を上げる。 「「「美味しそうなキルシュパイ!!!」」」  というわけで、少女4人のお茶会が始まる。何しろ、仲の良い友達同士が久しぶりに集うお茶会である。しかも天気も上々で吹き抜ける風も心地よい。この日は庭園でお茶会を開催するには、絶好の日和と言えよう。
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