泣いている

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「……いいですよ。ここにいても」 「え?」  彼がポツンと小さな声を落とした。私は何となく心がざわついて、顔に張り付いた髪の毛を払いのける。雨が鬱陶しい。 「この庭園は私の管理下だから。私がいる間だけならここにいてもいいです」  彼は何か訴えるような色を瞳に乗せて、じっと私の顔を見つめた。私は懇願めいた気持ちでその瞳を見つめ返す。  どうしてこんなにも必死に彼を受け入れようとしているのか、自分でもよく分からない。気まぐれかもしれない。だって学校の屋上で一人夏休みを過ごすだなんて、あまりにも寂しいじゃないか。  だから。私は震える息を吐き出した。どうか、頷いて。 「……はい」  吐息のような声が聞こえて、私は体から力を抜く。彼はふっと表情を緩めると、その口元に小さな笑みを浮かべた。 「ありがとうございます」  私は胸に滲む安堵を押し隠し、ゆっくりと一度頷いた。  雨はずいぶんと小降りになっているが、それでも細い雨が彼の表情を断片的に隠してしまう。もどかしさを噛み締めながら、私は鞄からタオルを取り出して彼の方へと差し出したのだった。
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