探している

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「……彩り?」 「うん。人生の彩り。馬鹿みたいだろ」  掠れた笑い声がかすかに耳に届いた。雨音に紛れてしまいそうなほどに不安定な声。 「屋上に来れば、思ってたよりもずっと空が近くに見えるんだ」  私に傘を持たせて宮本くんは立ち上がる。せっかく拭いたのに、また彼の全身が雨に覆われていく。 「空が近くて、地上はこんなに遠い。みんなから取り残される。一番天国に近い位置に立っているような気持ちになる」  彼が屋上の端に向かって歩き出す。ゆっくりとした足取りなのに、私は決してその背中に追いつけないような気がした。  宮本くんは一番端までたどり着いて胸壁を掴む。そこから下を見下ろして、一瞬だけ彼は震えた。 「一番濃く、『死』を感じられる」 「……宮本くん」 「安心したいんだ」  思わず立ち上がった私の前で、宮本くんは胸壁をぎゅっと握りしめた。その手は驚くほどに白い。きっと雨が体温を奪っている。 「世界から一人取り残される感覚に陥って。ふとした拍子にアスファルトに落ちることを想像して。まだ恐怖心が働くことを実感したら、僕はようやく安心できる」  彼はこちらを振り返った。どこか強ばった表情の中で一生懸命に笑みを浮かべている。そんな姿を見て、私は先ほど自分が言った言葉を脳裏に浮かべた。 ――一生懸命に育つでしょ。だからなるべく綺麗に咲かせてあげたい。  花みたいだ。彼は。そんな風に思った。 「ここに来れば僕は、『死にたくない』って、思えるんだ」  それが、今の僕にとって最大の彩り。  そう言って宮本くんは目を細めた。
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