探している

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※※※ 「江口さんは花、好きなの?」  屈みこんで鉢植えの様子を確認していると、彼――宮本尚也と名乗る男子生徒は、私の手元を覗き込みながら遠慮がちに訊ねた。聞くと同学年だったため、口調は砕けたものにするよう決めた。  彼の右手には私の傘が握られ、頭上に差しかけてくれている。 「どうかな。虫とか苦手だし、手は汚れるし、力仕事も多いし。お世話は大変」  花をかき分けて枯れているものを見つけ出す。ごめんね、と呟きながらハサミを入れた。 「でも、一生懸命に育つでしょ。だからなるべく綺麗に咲かせてあげたい」 「……そうだね」  少し傾いた傘の先から、纏まった水滴が滑り落ちた。  たぶん宮本くんの半身は雨に晒されているだろう。その代わりというわけではないけれど、彼の首元には私のタオルがかけられている。どうせ二人ともびしょ濡れなのだから、今更何をしても悪あがきだ。  パチン。萎れた花弁がコンクリートの床に落ちる。 「宮本くんは?」 「ん?」 「屋上が好きなの?」  チラリと視線をやると、彼は虚を突かれたように目を丸くしていた。そして予想通り彼の右肩は雨に打たれている。 「庭園を見に来たなんて、嘘でしょ」 「……どうしてそう思うの?」 「私が来た時、宮本くんは花なんて見てなかったから」  落ちた花弁をそっと拾い上げてビニール袋の中にしまう。私の声から逃れるように、宮本くんは花弁の行方を目で追った。 「君は空を見てた」 「……」  彼はばつが悪そうに表情を歪めた。私は視線を手元に戻して作業を続ける。  葉が少し黄色い。肥料が足りていないかもしれない。ハサミを入れ続けながら、私は肥料の保管場所について記憶をたどる。  それから別の鉢植えに移ろうとしたとき、彼はポツリと呟いた。 「彩りを探してるんだ」  顔を上げると、彼は足元に視線を落としていた。濡れた前髪に遮られて表情は見えない。
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