2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
探している
※※※
「江口さんは花、好きなの?」
屈みこんで鉢植えの様子を確認していると、彼――宮本尚也と名乗る男子生徒は、私の手元を覗き込みながら遠慮がちに訊ねた。聞くと同学年だったため、口調は砕けたものにするよう決めた。
彼の右手には私の傘が握られ、頭上に差しかけてくれている。
「どうかな。虫とか苦手だし、手は汚れるし、力仕事も多いし。お世話は大変」
花をかき分けて枯れているものを見つけ出す。ごめんね、と呟きながらハサミを入れた。
「でも、一生懸命に育つでしょ。だからなるべく綺麗に咲かせてあげたい」
「……そうだね」
少し傾いた傘の先から、纏まった水滴が滑り落ちた。
たぶん宮本くんの半身は雨に晒されているだろう。その代わりというわけではないけれど、彼の首元には私のタオルがかけられている。どうせ二人ともびしょ濡れなのだから、今更何をしても悪あがきだ。
パチン。萎れた花弁がコンクリートの床に落ちる。
「宮本くんは?」
「ん?」
「屋上が好きなの?」
チラリと視線をやると、彼は虚を突かれたように目を丸くしていた。そして予想通り彼の右肩は雨に打たれている。
「庭園を見に来たなんて、嘘でしょ」
「……どうしてそう思うの?」
「私が来た時、宮本くんは花なんて見てなかったから」
落ちた花弁をそっと拾い上げてビニール袋の中にしまう。私の声から逃れるように、宮本くんは花弁の行方を目で追った。
「君は空を見てた」
「……」
彼はばつが悪そうに表情を歪めた。私は視線を手元に戻して作業を続ける。
葉が少し黄色い。肥料が足りていないかもしれない。ハサミを入れ続けながら、私は肥料の保管場所について記憶をたどる。
それから別の鉢植えに移ろうとしたとき、彼はポツリと呟いた。
「彩りを探してるんだ」
顔を上げると、彼は足元に視線を落としていた。濡れた前髪に遮られて表情は見えない。
最初のコメントを投稿しよう!