あたしのユメ

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あ、一人だけ例外がいた。 同じ陸上部の同級生、山田太一だ。 800mの選手で、地区でも有力者の一人。 陸上に取り組む姿勢とか、直向きな性格とか、同級生だけど尊敬できる相手。 因みにあたしの元カレ。 元カレって言っても、中一の一時期、一緒に帰ったり、たまに映画に行ったりした程度の、付き合ってんのか、ただ単に一緒に遊んだだけなのか、よくわかんない関係なんだけどね。 そんな曖昧な関係だったけど、あたしらが二年生になった頃、初めてできた陸上部の後輩に彼が告られ、私の知らないところで一緒に帰ったりしていたことがあったのを、きっかけに、別れた。 別れたって言っても、あたしら自体が、お互いに告って始まった関係じゃないので、別れ方も、“あたしはもう、アンタと一緒に帰らないから”って伝えただけ。 彼も小さく一言、“わかった”と言っただけ。 それ以来、山田太一と二人っきりで帰ったりすることは無くなった。 あっさりした別れ方だったけど、「一緒に帰らない」と伝えた夜、伝えてからそれまでなんともなかったのに、お風呂の中で突然涙がこみ上げてきた。 あれ?私やっぱり太一のこと好きだったのかな? 気づいた時にはもう遅かったんだけどね…。 って、もう太一のことは吹っ切れてるんで、今はそんな話はどうでもよくて。 わたしが胡座をかいて座っていると、空気を読まない太一が話しかけてきた。 「エリぴょん、相変わらず悩んでるねぇ」 「エリぴょんって言うなし」 太一はあたしの反論には構わず続けた。 「もう練習はやるだけやったんだから、後は体調を整えるだけだよ。これから新しいことなんて出来やしねーんだから」 「そりゃ分かってるんだけどもさ」 「追い込みすぎて、精神的に余裕がねーんだわ」 「うー」 あたしは反論できずに黙り込んだ。 分かってる。分かってるんだけどさ、余裕が無いのは。 でも、あたしは何が何でも『ファイナリスト』になるんだ。それだけが目標で、この三年間やってきたんだし。 何も言えないあたしが口をぎゅっと結び俯いていると、「しゃーねーな」と太一がポンとあたしの頭を叩いた。
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