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「じゃ、休めって言っても休まないなら、ドーピングしないとな」
「ドーピング?」
地区の中学レベルで薬物汚染なんて有り得ないんですけど。
突然何言いだすんだ?
あたしが顔中にはてなマークを浮かべて太一の顔を見つめていると、太一はフッと笑ってさらにとんでも無いことを言い出した。
「ところでさあ、俺が聞くのもアレだけど、エリぴょん、好きな人いる?」
「は? い、いねーし」
あたしはかなり動揺した。
以前好きだった人にこの質問をされるのは、吹っ切れたとはいえ、なかなかクるものがある。
でも、まあ、私も新しい恋に一歩…
いやいや、何言ってるんだ?
大会前のこの時期に愛だの恋だのって。
…ごめんなさい。ヤツが言うように、今、気になる人がいます。
その相手とは、今のクラスメイトで、二年生の時、厨二病まっしぐらだった児玉宏樹。
その厨二病に罹患している当時、ヤツに廊下ですれ違いざまに肩がぶつかろうものなら、
『フッ。貴様、今のオレが世を偲ぶ仮の姿で命びろいしたな。闇の世界から与えられし真の姿の時のオレ様にぶつかろうものなら、貴様など瞬時に廊下の隅に吹き溜まるチリになっていたところだ』などといちいちめんどくさい反応をするヤツだ。
だけど、三年になって同じクラスになると、既に厨二病は治っていて、普通の男子だった。
しかも、しかもだよ?
普通に戻って、それまで目が隠れるほど伸ばしていた髪を切り、スッキリした彼をよく見ると、顔は意外と好み。
同じ美化委員で放課後の委員会活動を分担する時も、陸上部の私に気を使って、帰宅部の彼が多くの仕事を取ってくれる。
更にありがたいことに、中二の時が“あんな”だったから、同級生の女子にライバルはいなさそう…。
…って、なんで太一が、私が児玉のことを好きなのを、知ってるんだ?
「エリぴょん、“なんでお前が児玉のこと知ってるんだ?”って顔してる」
「いやいや、誰でもそう思うっしょ」
「あ、やっぱ児玉だって認めるんだ」
「うっ…」
しまった。動揺して思わず否定するのを忘れてた。
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