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「児玉、フリーらしいよ」
そう言いいながら意味ありげにこっちを見てニヤッと笑うのを見て、太一の肩をグーでパンチ。
「知ってるし…」
「じゃ、話が早い。休めって言っても聞かねーなら、最後まで全力でやりきるための目標作らねーとな」
そう言うと、太一はまた意味ありげにこっちを見て、勿体つけてタメをつくる。
「なんだよ。早く言えよ」
あたしはそう悪態をついて、また太一の肩を、今度は少しだけ軽めにパンチ。
「お前、児玉に告白するのを目標にしろ」
「へっ?」
変な声出た。
突然何言い出すかと思ったら…。
「最後の大会、ファイナリストになれたら、児玉に告白しろって言ってんのっ!」
「なななななななに急に言い出すんだ、お前」
「だって好きなんだろ、児玉のこと」
「ぐふぅ…」
また変な声出た。
「だって児玉、私のことなんか気にしてないだろうし…」
「そうとも限らねーよ」
「えっ?」
「お前、黙ってりゃ可愛いし」
「あら、ありがと」
ポッと頬が赤くなるのを悟られないよう、無表情で返す。
「オレの元カノなだけ、ある」
「って、今それ言う?」
忘れていた傷を全力で抉るようなことを言う太一を、あたしは思いっきりヤブにらみする。
「ま、とにかくだ。お前は、“ファイナリスト”になるという目標で苦しんで行き詰まってるんなら、アプローチの仕方を変えてだな。ここはあえて児玉に告白するってのを目標にして頑張ればいいんじゃね?到達するゴールは一緒なんだし」
そう言うと、太一は“いいこと言った”風にドヤ顔してこっちを見ている。
人の気も知らないで。
まあでも、太一の言うことも一理ある…ような、そんな気もする。
“ファイナリスト、ファイナリスト”言って、休息をとることを拒否して藻搔いてるんなら、目標を“児玉へ告る”と置き換えて、その恋心をパワーにして、残り三週間を休まず乗り切れってことだよね。
「分かったよ太一。頑張ってみるよ」
「そっか。ホントのこと言うと、オレ的にはそれを目標にするんじゃなくて、お前にホントは休んで欲しいんだけどな。まあお前が決めたんならしょうがない」
「えっ?ホントは告白して欲しくないってこと?それってまだ、あたしのこと…」
「それはない」
「はい?」
「それは、ない」
「あ、そう」
太一は目ヂカラを込めて私を見つめている。
あたしは一瞬でも勘違いしてしまった恥ずかしさを隠すため、目を逸らして校庭の向こうの時計台を見てみた。
「あ、もうこんな時間」
「帰らなきゃ、だな。まあ、オレもお前にこんな事をけしかける以上、協力するよ」
「ふーん、どうやって?」
「オレ、児玉と幼馴染なんだ」
「えっ、そうなの?」
「あれ?知らんかったっけ?」
「知らんし」
「じゃあ、当日を楽しみにしとけ」
そう言うと、太一はあたしの頭をポンポンと叩いて、帰っていった。
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