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「あたし、ついていけなかった」
ホラー映画の作品と殺人鬼を、フルネームで、しかもドラマの長台詞のような流暢なことばで一字一句間違えずにピタリと言い当てる湊町は、車中ではさながら名探偵の名推理を彷彿とさせるが、役者の川尻美春には、さっぱりついていけなかった。
「ご名答だ」
「当然だよ」
「これなら、湊町くんが探偵役すればいいんじゃない? あれだけ長い台詞を一息で言えるんだから、監督主演で撮っても良い線いくと思うな」
川尻は湊町にそう提案を促すが「断る」とばっさり切られてしまう。
「ぼくは、カメラに映るのが、とても苦手なんだ。だから、ずっと映す側の人間でいたいんだ」
湊町はそっぽを向きながら、監督というスタンスを選んだ理由を話した。そんな監督が自撮り棒という自分を撮影する道具で撮影しているのも妙な光景だが、ひとには、触れて欲しくないものがある。
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