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まずは二週間。 抱く側から抱かれるための身体になるため、ツユクサは研修を言い渡された。 蜂巣の一室で行われたその研修とは所謂『肉体改造』で。 ツユクサは、そこで初めて後ろを経験させられた。 ゆうずい邸で散々男を相手にしてきたため、男同士ということには抵抗がないものの、自分が抱かれる側になるというのはまた別の話。 それまで排泄器官でしかなかったそこを、丁寧に洗われ、解され、穿たれ、淫靡な孔へと変化させられる屈辱は相当なものだった。 しかもツユクサの初めてを奪ったのは翁面の男衆、名前も知らない男だった。 それも一人だけではない。 何人もの男衆に代わる代わる、休む暇もなく断続的に抱かれ続けた。 しかも皆、能面を被っているため感情を窺うことはできない。 相手がツユクサに挿れてどう感じているのか、どんな風に思っているのかも読み取ることができず、ただただ股の間で男根が出入りを繰り返す… それは文字通り肉体を作り変えるためだけのセックスだった。 途中、何度か様子を見にきた楼主に「もしかしたら」という淡い期待を抱いたが、楼主の目も感情のない冷めたもので。 結局淡い期待は最後まで叶うことはなかったのだ。 こんなものだ…。 ここは廓。 存在するのは男娼かそうでない者か。 抱かれる人間か、抱く人間か。 たかが一人の男娼の処女が失われたところで、誰も悲しんだり哀れんだりはしない。 ズタズタに引き裂かれたプライドを必死に縫い合わせて、折れそうな心に叱咤して、ツユクサは何度も何度も自分に言い聞かせた。 『大丈夫、何も問題はない。これであの男にいつ抱かれてもいい身体になったんだ』と… そうして研修を乗り越えたツユクサは、晴れてしずい邸の男娼として座敷に上がることになったのだ。 楼主を押し倒し、あっさり断られてから三日目。 張見世の中で他の男娼たちと開店時間を待ちながら、ツユクサは少し焦りすぎたなと反省していた。 ツユクサはまだしずい邸の男娼になってから日が浅い。 他のしずい邸の男娼に比べたらまだ自分が未熟で、明らかに他のしずい邸の男娼と違うということに気づいたのだ。 張見世の中で思い思いのスタイルで客たちの指名を待つしずい邸の男娼たち。 そこにただ座って、おしゃべりをしたり髪をいじっているだけなのに、明らかに自分とは違う空気を纏っていると感じる。 男であり、男でない存在…。 女物の着物を見につけ、うっすらと化粧をしているものもいるからかもしれないが、でも決してそれだけではない。 纏っている空気が()なのだ。 それを改めて思い知らされた。 悔しいが、それはきっとここにいる男娼たちがツユクサより遥かに経験豊富だからで…。 まだ、しずい邸の男娼として数週間のツユクサに簡単に身につくようなものではないと理解できたのだ。 もしかしたらツユクサの身体にはまだまだ雄っぽさが残っていて、それが楼主に断られる原因になったのかもしれない。 雄臭いツユクサを抱く気にならなかったのかもしれない。 もっと雌っぽく…匂い立つような色気を身につけなければきっと楼主をそのきにさせる事なんてできないだろう。 だからそのためにもっと経験を積んで、雄の匂いを消していかなければいけない。 もっと客を取らなければ…!! もっと…!! 「ねぇ」 一人ピリピリとしていたツユクサに向かって誰かが話しかけてきた。
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