5.澤くんと藤倉家

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5.澤くんと藤倉家

「ごめんなさいね呼び止めちゃって。お時間大丈夫かしら?」 「いえっ、全然!勝手に来たのは俺の方ですし。寧ろお邪魔してます」 何て上品な人なんだろう。立ち居振る舞いや言葉遣いが細やかで丁寧で、その一挙手一投足に見惚れてしまいそうになる。そう言えばあいつも、食べる仕草とか綺麗だったなぁ。 リビングに通された俺はふかふかのソファにぎこちなく座りながら、キッチンでお茶を用意してくれている藤倉のお姉さん(仮)を何となく目で追っていた。 背の高さも体格も髪の長さも全然違うのに、所々であの後ろ姿と重なる。家族ってこんなに似るものなのかな。やはり恐るべし、藤倉一族の血筋。 もう一週間以上見ていないあの面影を追いかけるように、俺は無意識に見過ぎていたのかもしれない。振り返った藤倉のお姉さん(仮)とバチッと目が合ってしまった。ヤバい、変に思われたかな。と思ったら彼女はお茶をソファの前のローテーブルにゆっくりと置いた後、口元に手を当てて上品な笑みを漏らした。 「ふふっ、ありがとう。あの子のこと心配してわざわざ来てくれたのでしょう?嬉しいわぁ。…こんなに素敵なお友達が居たのなら教えてくれても良かったのに」 やっぱりこれは…もしかして。 「あ、の…家ではあまり会話しないんですか?あ、えとすいません、いきなりこんな質問…」 どうも先程から、いや、ずっと前から気になっていた疑問が思わず口から零れ出てしまった。 藤倉は、自分の家のことをあまり話さない。こんなに大きな家なのに藤倉の家はいつ来てもあいつ以外見たことが無かったし、現にこうしてあいつのご家族と対面してる今も何だか変な感じがしている。俺の物差しで計ることになっちゃうけど何処か、俺の知っている「家族」とは違う気がして。 それにこの藤倉のお姉さん(仮)の話し方から、その疑問は更にはっきりとした形を帯びてきたのだ。あいつはもしかしたら、家族との関係が…あまり上手くいってなかったりするのかな、なんて。 ってこんな人様の家の事情に踏み込むようなこと、駄目だよな。もしかしたらあいつにとっては聞かれたくないことかも知れないのに。こんなことにまで首を突っ込もうなんて…俺はどんどん傲慢になっていっているんだろうか。 語尾を弱くして俯く俺に、また穏やかで落ち着きのある声が掛けられた。ゆっくり顔を上げると、あいつと同じ…いや、それよりもう少しだけ暗い榛色の双眸が柔らかく微笑んでいる。 「いいのよ。あの子から、何か聞いてる?」 「あ、いえ。特には、何も」 俺が踏み込んで聞かなかったってのもあるけど、あいつの家庭事情について俺は何も知らない。一人っ子でこんなでかい家に住んでるってことくらいしか。まだまだ、藤倉の事は知らないことが多いなぁ。 「そう。別に何があったっていう訳でも無いんだけれどね。私達…私と旦那は共働きでね。二人とも忙しいことが多くて、一織が小さい頃から一緒に居てあげられないことが多かったから。あの子には沢山寂しい思いをさせてきたのよ」 「そうなんですか。ご夫婦で共働き………。え、ふうふ、って…えぇ!?貴女は藤倉のお、お母さん!なんですか…っ?!お姉さんじゃなくてっ?!」 何とここに来て衝撃の事実が発覚してしまった。悪い藤倉。お前の生い立ちよりこっちの方がよっぽど衝撃的だ。何と目の前のご婦人は藤倉のお姉さんではなくお母さん…らしい。このビジュアルで高校生の息子がいるなんて嘘だろ。え、やっぱ女優さんか何かなの? 俺の反応を見て少し目を丸くした藤倉のお姉さん改めお母さんは、また上品に口に手を当てて「ふふっ」と笑みを零した。 「あらあら、そんなに若く見えるかしら?嬉しいわ。そう言えば紹介が遅れてしまってごめんなさいね。改めまして、一織の母です」 「え、あ、すいません!俺もちゃんとした自己紹介がまだでした。改めまして、澤優臣と申します。藤倉…くんとは同学年で、学校で仲良くさせてもらってます」 「優臣くん、良い名前ねぇ。改めまして、よろしくね」 「はい」
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