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4.澤くんとお姉さん(仮)
「んー…留守なのかな。でも他にどこ探せば…」
結局気になってまた来てしまった…この豪邸に。
だって相変わらず電話にも出ないしメッセージに既読は付かないしで連絡しようが無いんだもん。他に方法が思い付かなかった。というかもう学校休んで一週間以上だぞ。仮にインフルエンザだったとしてももう復帰しててもいい頃じゃないか。
ってか学校に来るのが無理でもせめて連絡くらい返せってんだいつもの鬱陶しいまでのテンションはどうしたあの変態野郎!
駄目だ苛々してきた。何だってこんなにあいつのことで振り回されなくちゃならないんだ…。もう一か八かで窓に小石でも投げ付けてやろうかな。駄目かな。妹の漫画でそういうシーン見たことあるけど、実際にやる勇気は無いな。
ってか窓ガラス割れたら危ないし大変そうだからやっぱ駄目だよな普通に…。
どうしよう。もっかいインターフォン押してみるか?でもあんまり何回も鳴らしてもなぁ。やっぱ誰も居ないのかも…。あ、近所の人ならもしかして何か知ってたり…?
「あのー?」
「うぇっ?!」
俺が玄関前でブツブツぼやいていると、背後から声が掛けられた。静かでとても上品な、少し高い声。
「あの、うちに何かご用でしょうか?」
「あっ!すいません俺、」
考えてみれば超不審者だった!人ん家の前でブツブツ言いながらうろついてるなんて、怪しさしかない。…通報されるのか?
恐る恐る声のした方へ振り返ると、そこにはなんとも綺麗な女の人が立っていた。ふわりと鼻腔を掠めた花のような匂いは、甘すぎなくてどこか爽やかで…あれ、この香り知ってる気がする。
っていうか、モデルさん?何かの取材か?こんな閑静な住宅に突撃訪問的な?だってこの人、テレビや雑誌の中でしか見たことがないようなスタイルだぞ…。
芸能人って言われても成る程と納得してしまうくらいマジでめっちゃ美人さんじゃん…。いや、でもどことなく藤倉に似てるなぁ。あいつが女装したらこんな感じになるんじゃあ…。あっ!!
鈍い俺はそこで漸く気が付いた。この人、もしかしてもしかしなくても藤倉のご家族の人か!お姉さんかな。あいつにお姉さんなんていたのか?そんな話聞いたことないけど、でもここの家の人っぽいし確実にあいつの家族だろうな。あいつの家族らしき人には初めて会ったが、藤倉一族の血恐るべし…。
普段の奇行で忘れがちだがこうして見ると奴は美形に分類されるんだったな…。だからこそファンクラブとかもあるんだしなぁ。正直忘れてた。
「あの…その制服、もしかして」
俺がおどおどしたり勝手に感心したりしていると、藤倉のお姉さんらしき人が俺の制服を見て呟いた。どうやら彼と同じ学校の生徒だと察してくれたらしい。
「すいません突然来ちゃって。あの俺、藤倉…くんと同じ学校の澤って言います。あの、ふじく、…えと、一織くんって今ご在宅ですか…?」
「あらやっぱりあの子の!どうぞどうぞ、上がってくださいな。ごめんなさいね、わざわざ来てくださったのにお待たせしちゃって」
「え、いやあの、俺は」
「どうぞ、あの子ならきっと部屋に居ると思うわ。…もし良ければ、学校でのあの子の話聞かせてもらえるかしら?」
「あ…はい」
居るのか?部屋に?本当に?
ならインターフォン出ろよ居留守かよ、と若干の苛立ちがまた顔を出したことについては今は置いておこう。俺最近イラついてばっかり。何かやだなぁ。カリフラワー嫌いとか言ってないでちゃんとバランス良く食うべきだったかな。
まぁよく分からないけど折角のチャンスだ。本当に家に居るというならあいつに会えるかも知れない。
そうして俺は言われるがまま藤倉のお姉さん(多分)のご厚意に甘え、何度目かの藤倉宅に招き入れられたのだった。
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