第十一話:死神教授とE20サミット(前編)

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第十一話:死神教授とE20サミット(前編)

 ついに、この日が来たか。吾輩は誇らしさに胸が膨らむ思いであった。  我々チョーカーは、押しも押されもせぬ、世界最大の悪の秘密結社である。その支配地域は世界の半分以上に及び、特に日本支部とヨーロッパ支部は互いに切磋琢磨しながらも、着々とその版図をそれぞれの世界に拡げている。  が、世の中には出る杭は打たれる、と言う諺もある。歴史と伝統、更に技術力を兼ね備える我がチョーカーであろうとも、その定めからは逃れられぬ。ゆえにチョーカー設立以来の歴史は、単に既存政府、政権側との闘いだけではなく、本来同じ目的を共有しているはずの者たちとの凄絶なる抗争の歴史でもあった。  吾輩がチョーカーに参加した、この短い間であっても、大小を問わず無数の敵と争ってきた。その幾つかについては、既に諸君らも知っているであろう。  だが、そうした地道な勝利の積み重ねが、ついに実を結ぶ時がやって来た。記念すべき第一回E20サミットの開催が、ここチョーカー日本支部において、ついに実現したのである。  E20サミットとは、我がチョーカーの呼び掛けに呼応し、世界中から集まった20の悪の組織代表が、ここ日本の地で一同に介し、今後の世界征服への展望や、その方策について議論する歴史的イベントである。ああ、ちなみにEはEvil、即ち敵、の頭文字である。そして、栄えある第一回サミットの議長を、不肖、吾輩こと死神博士が拝命したのだ。  無論、本来であればチョーカーのトップである総統閣下が議長を務めるのが筋ではある。だが、多くの悪の組織がそうであるように、真のボスと言うものは人前にめったに姿を表さないものである。そして、この会議に参加している者は、自ずと組織の実働部隊を仕切る実力者、すなわち名実共にNo.2と言う事になる。  口には出さぬものの、吾輩の胸に、ついにここまで来たか、と言う思いが去来しなかったと言ったら嘘になるであろう。  が、そのような甘い感傷に浸っている場合ではない。彼らは総じてチョーカーよりは小さい組織だ。だが、曲がりなりにも悪の秘密結社を名乗っている以上、一筋縄で行く相手ではない。お互いに激しく敵視し合っている者達も少なからず居る。既に到着早々、小競り合いが起きている状況であり、この機を捉えて会議ごと抹殺して覇権を握ろうとする不心得者が出ないとは限らない。  会期末まで、緊張を強いられる日々が続きそうだ。改造人間ゆえに胃が痛む事は無いのが救いと言えば言えるだろうか。  ところで、この会議にはもう一つ、隠された重要なテーマがある。その目的の重要度に比べれば、有象無象の組織を他に18も集める必要など無いと言っても良いくらいだ。勘のいい諸君であれば、既にお気づきであろう。そう、我がチョーカーが唯一噛み込めていない地域、北米を支配するダムダム団との共闘を実現する事である。  ダムダム団は謎の多い組織である。我が方が放ったスパイが持ち帰った数少ない情報によれば、組織の成り立ちは我がチョーカーによく似ていると言う。こちら側もダムダム団のスパイを多く摘発しているので、言えた義理では無いが、相手が非常に強力な秘密保持体制を敷いているとは言えるだろう。で、それはそれとして…。  「カンナ様、先程から何をしておられるのです?」吾輩は傍らで姿見とにらめっこしながら、ああでもない、こうでもないと身なりを整えているカンナの姿をした総統閣下に、やや呆れ気味に声をかけた。  「何をしている、とはまたご挨拶だな。」さも当然と言った様子で答えるカンナ=総統閣下。「敵情調査だよ、敵情調査。世界各国から、これだけの数の代表団が揃っておるのだ。この機に様子を探るのは当然ではないか、うん?」  吾輩は小さくため息をつき、答える代わりに指を鳴らした。途端に、屈強な怪人が二人、何処からともなく表れてカンナ=総統閣下の両腕を脇に抱えて部屋から連れ出そうとした。「な、何をする!こら、離さんか!」カンナが自由な足をバタバタさせて抵抗するが、吾輩は有無を言わせるつもりは無かった。  「ご無礼は平にご容赦下さい。しかし、今日という今日はいけません。宜しいですか?廻りは刺客だらけなのですぞ。いくら親衛隊がついているからとは言え、万が一総統閣下の身に何かあってはこの死神教授、死んでも死に切れません。いっそ無礼を咎められ、後から処刑される方がよっぽどマシです。」  「お、おのれ死神教授、許さんぞぉぉぉ」ドアから連れ出されたカンナの声が漸く聞こえなくなり、吾輩はやっと安心して来客リストに目を通すことが出来た。ふむ、ダムダム団の先遣隊はもう到着しているようだな。よし、この目で予め確認しておくか…。
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