83人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
フゥー……。
一呼吸のロングブレス。
溜息を吐いたわけではない。これが俺の集中法だからだ。
手枷で不自由ながらも、左の蟀谷のみを揉み解しつつ、赤き明かりの出所を探り当てる。
それは天窓と見紛う位置に設えられた高窓だった。
我がマジェンタ王国を照らす、赤い月明かりが差し込んでいるのだろう。
まさか……ここは我が城の地下牢獄だとでもいうのか。
顎に手を当てる。
髭の伸び具合から、幽閉されて丸二日といった処だろう。
記憶の糸を手繰り寄せる。
鈍痛が収まらず苛々するが、ぐっと堪える。
最後に覚えているのは、我が盟友・ライヴァールがくれたお茶を飲んだことだ。
確か、コピ・ルアクと言ったな。
ジャコウネコの糞に由来する希少な逸品であったはずだ。
独特なる複雑怪奇な香味は、寧ろ、茶よりも薬に近かった。
俺は匂いを想い出すことで、幾つかの記憶を呼び起こすことに成功していた。
最初のコメントを投稿しよう!