01 アニリンの災難

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フゥー……。 一呼吸のロングブレス。 溜息を()いたわけではない。これが俺の集中法だからだ。 手枷で不自由ながらも、左の蟀谷のみを揉み(ほぐ)しつつ、赤き明かりの出所を探り当てる。 それは天窓と見紛(みまご)う位置に(しつら)えられた高窓だった。 我がマジェンタ王国を照らす、赤い月明かりが差し込んでいるのだろう。 まさか……ここは我が城の地下牢獄だとでもいうのか。 顎に手を当てる。 髭の伸び具合から、幽閉されて丸二日といった処だろう。 記憶の糸を手繰り寄せる。 鈍痛が収まらず苛々するが、ぐっと(こら)える。 最後に覚えているのは、我が盟友・ライヴァールがくれたお茶を飲んだことだ。 確か、コピ・ルアクと言ったな。 ジャコウネコの糞に由来する希少な逸品であったはずだ。 独特なる複雑怪奇な香味は、(むし)ろ、茶よりも薬に近かった。 俺は匂いを想い出すことで、幾つかの記憶を呼び起こすことに成功していた。
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