83人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
03 マジェンタ王国の赤子は、殊更赤い。
現国王ファウスト・マジェンタが、ひっそりと息を引き取った。
僕は、ライヴァールからその報を受けた。
報を受けても、僕は実父の死に無感動だった。
まるで他人事の様だったし、魔窟では葬儀を行う風習すらなかった。
本当の父上であろうと、碌に顔すら見ていないのだ。
尊敬の念も、愛情の欠片も湧こうはずがない。
寧ろ、憎さが倍増されるだけだった。
同じ顔・同じ声の愚鈍な男はもうアニリンではない。
この訃報も知らないだろう。
計画は順調に運んでいる。
魔窟で知り合った、シルクロードの果ての民族。
王の死は、不毛な高山地帯で馬術を得意とする彼らが用いる『秘薬』の賜物であった。
徐々に体力を奪い、思考を薄め、緩やかな死へと至らしむ。
それでも、計画的に進めてきたのは、強い決意があったからだ。
マジェンタ王国を赤く照らす、あの月にも似た強い決意が。
最初のコメントを投稿しよう!