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02 面影のレイワード
「ようやくお目覚めですか? アニリン・マジェンタ王子?」
神経を逆撫でされるような声に想わず苛立つ。
嫌悪を覚えるのだ、この聞き覚えのあるような、初めて聞いたような声に。
俺はそのままの苛立ちを声に乗せて応えた。
「誰だ? 貴様は?」
声の主はツカツカと歩み寄り、ブーツのつま先で俺の鳩尾を蹴り上げた。
俺は堪らず、床に崩れ落ちたが、胃液しか吐き出せなかった。
「無様なお姿ですね、兄上」
「兄……だと? 俺に弟はおらぬ!」
「ご存知ないのは無理もない」
男は松明をかざし、その手に握られたネックレスを照らす。
ゆっくりと。
そう、ゆっくりと。
よく見えるように。
陰影が不吉な音色を奏でるような、仕草で。
俺の心臓は、悪魔に鷲掴みにされたかの如く、拒絶の旋律を奏ではじめる。
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