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出会い
彼がそれを見つけたのは、本当に偶然の事だった。
「人間の子供···?」
彼はこの山に住む狐の妖だ。
そしてこの山に住む妖ならば、彼が人間嫌いである事は誰もが知っていた。
「どうしてこんな所に···」と忌々しそうにそう顔を歪めて様子を伺うと、子供が高い木の上を気にしている事に気がついた。
「あぁ、鞠が木に引っかかっているのか···」
実際はゴムボールなのだが、妖である彼にとっては些細な違いである。
あの状態ではあの幼子では届くまい。
時折キョロキョロと周りを伺うが、登れもしないしと途方に暮れているようだ。
あの様子では帰るに帰れないのだろう。
仕方ないとばかりにため息をついた彼は、トンっと軽く飛び上がる。
ゴムボールを取り、音を立てずに幼子の前へと舞い降りた。
「そら、これが取りたかったんだろう。
これを持ってさっさと家へ帰れ」
ずぃ、と差し出されるボールを受け取る事も出来ずにポカンとして固まる子供。
それはそうだ。
ボールを取ってくれたとはいえ、子供からしてみれば突然音もなく男が現れたのだから驚くのも無理は無い話である。
「···えと、ボールとってくれてありがとう」
やっと状況が飲み込めたのか、子供はおずおずとボールを受け取り、へにゃりと照れ臭そうに笑って手を振りながら帰って行った。
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