野良猫

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卓上クッキングヒーターの上で小鍋がことこと音を立てている。蓋の隙間から噴き出す湯気が換気扇の向こうに吸い込まれていった。 ゴローがうちに来るようになってからもう一年以上は経つ。 初めて会った時は冬だった。俺の住んでいるアパート近くの路地で倒れていたのだ。 携帯はおろか金も身分証明書も何ひとつ持っていなくて、何を聞いても一言も話さなかった。 ただ、綺麗な男だった。 浅慮な行為だとは理解しつつもその男を家に泊めた。警察には言わなかった。雰囲気から訳ありなような気がしたし、何となく人に教えたくなかったのだ。 とりあえず飯を食わせてやって、ソファで寝かせた。 翌朝に男はいなくなっていた。金品を取られたのかとも思ったが家の物は何一つ手付かずで、俺が食わせてやった食事の食器だけが流しに置かれていた。 面倒事にならなくて良かったという安堵と、もの寂しさが残った。 それから一ヶ月くらい経った日の夜、忘れかけていた男が再びふらっとやって来た。コンコンと窓を叩く音に驚いて目を向ければ、ベランダにうずくまったあの男がいた。 外からじっと俺を見つめる姿は、まるで野良猫――。
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