13.

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 俺がそう言うと、マシロは驚いた顔をした。図星だったらしい。アキラとマシロ。この双子の絆は深い。マシロがアキラを見捨てて逃げたと言うなら、それはアキラの望みだったに違いない。 「……へえ、驚いたな。鈍感そうな君がそんなことを言うなんてさ。……そうだよ、あの男にふたりまとめて拉致されて、倉庫に監禁された時、アキラはわざと逆らうようなことを言って自分に目を向けさせた。  どこの馬鹿か知らないけど、森さんの恋人はアキラだとあの男に言った奴がいるらしくて、男もアキラを最初からターゲットにしていたんだけど。……アキラはさ、僕の耳元で言ったんだ。逃げろって。この街を出て行けって。そして何が何でも生き伸びろって。馬鹿みたい。兄さんぶっちゃって。僕はさ、そんなこと言われるまでもなく、アキラを見捨てるつもりだったんだよ。森さんとふたりで金を持ってこの街から逃げるつもりだった。アキラは僕のその企みをとうに見抜いていたくせにそんなことを言うんだ。  僕は森さんとのこと、アキラには内緒にしていたんだよ。けど、ばれてたんだ。そりゃ、気付くよね。いくら目を盗んで森さんと会っていても。僕たちは生まれる前から一緒にいるんだ。相手のちょっとした変化にも敏感に気が付く。アキラは何もかも判っていて逃げろと僕に言ったんだ」 「だけど……君が森さんと付き合っていると知っていて何でアキラは森さんに興味があるようなことを言っていたんだ?」 「ああ、それね。そのおかげでアキラが森さんの恋人だと誤解されたんだけど」  心から面白そうにマシロは言った。 「森さんも困ったろうね。自分の恋人と同じ顔に言い寄られたら。……アキラのいつもの悪ふざけだよ。あの時は参ったけど、それも今は懐かしい」  軽く笑うと、マシロは続けた。 「……だからさ、僕はアキラが逃げろと言ったその時、思ったんだよ。何を犠牲にしても生きてやろうって。それで、君の名前を出した。本当の恋人は君だって。血の付いた一万円札の話をしたらあいつ、目の色が変わったよ。それで鍵の話もした。あれはただの店の合鍵だったけど、それがいかにも金の隠し場所に関係があるような言い方をした。それでその鍵が近くの公園に隠してあるって言ったら外に出られたよ。そして鍵にあの男が気を取られている隙に逃げてやったんだ。シンプルな逃亡計画だったけど、あっさりと成功したよ。ああ、それから、金の隠し場所は君だけが知っている、そう言ってもやった。君が狙われて殺されたっていいと思ったよ」 「……殺されなくて悪かったな」 「マスターに助けて貰ったんだろ? そうなるかもって思ってた。あの人、普段は人に関心なんか持たないのに。……やっぱり君って嫌な奴だ」 「だから、どうしてそういう結論になるんだよ」 「世界が違うって言ったろ」  今度はマシロが苛立って言った。 「ずっとここにいるつもりもないくせに、引っ掻き回してんじゃないよ」 「引っ掻き回しているのはお前の方だろう。お前の嘘のせいで俺は死にかけたんだからな。だいたい、俺がどこに居つこうが俺の勝手だ。お前にとやかく言われたくない。この鍵だって」  俺は手の中にある赤いリボンの鍵を見た。 「何でお前が持っているんだ。公園に隠してたって言ってたけど、何で隠す必要があるんだ。その辺からおかしい」 「宝物だから隠したんだ。それだけのこと。……その鍵はね、森さんが僕にくれたわけじゃない。僕が彼から盗んだものだ。何故か判る? そう、君の所に二度と行けないように、だよ。まあ、その必要もなかったんだけど。森さんが君を抱いた翌日の夜には、彼は殺されていたから。行きたくても行けないよね。多分、彼も近いうちに自分が殺されてしまうことを覚悟していたんだろう」  マシロは底光りする目で俺を見据えながら言った。 「その最後の夜に森さんが選んだ相手は僕じゃなくて君だった。何でだろうね、君はどう思うよ?」 「……そんなこと、判らない。俺は森さんと同じ店で働いていただけで、ほとんど喋ったこともないんだから」 「……そうだよね」  マシロは痛々しいくらい、自虐的に笑って言った。 「だいたい最後の夜ったって、それはただの結果だ。殺されてみたら君をレイプした夜が最後の夜になったというだけのこと。だけどさ、僕にしたらそれが判っていても、君のこと、憎たらしいんだよ。何で君なんだ。何で君を抱く必要があったんだ。  彼は死んでしまった。だからその答えは永遠に判らない。……けど、なんとなく判るような気もするんだよね。君は、やっぱりキレイだから、君を抱くことによって、あの人は浄化されたかったのかもしれない、なんてさ」  浄化?  俺は思わず、天窓を見上げる。けれど夜はもう白々と明け始めていて、月の姿はもう見当たらない。 「今まで生きてきた中で、滓のように溜まった穢れを、君なら浄化してくれるんじゃないか……。死を目前に感じて、そんな気持ちになったのかなって。馬鹿だよね。今更じたばたしても仕方ないのにさ」 「俺は……キレイじゃない」
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