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一
チャイムが鳴る。昼休みが、始まった。
ドアの軋む音。弁当の臭い。足音とともに舞う埃。冬眠中の大型動物のように静かだった教室は目覚め、太い鼓動を脈打ち始めた。
友達同士で集まり、喋り出す生徒。忽ち教室を埋め尽くす会話の粉塵は不潔な蛾の鱗粉のようで、聞くまいとしても耳に粘りつく。
――イイヨソレハゼンゼンキニシテナイ、ワタシキノウ、アノココノマエ――
見てはいけない。
顔を背けて窓を見る。カーテンは閉まっていた。薄汚れた黄色。学校のカーテンって、どうしてこんなにつまらない色をしているんだろう。息が詰まる。脳が疼く。小指を噛みちぎってやりたくなる。
たまらなくなって私は、弁当を抱え教室を出た。
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