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それからしばらく、三人の男は沈黙した。顎髭の盗人はときおり青年のほうを見遣ったが、彼の相棒は遠くを眺めるのみだった。なにかを思案しているようすにも思えた。
日が西の空を赤くする頃、幾人かの通行人が彼らを指して言った。
「見ろ、罪人どもが縛られているぞ」
「やい悪人ども、この世に正義はあるのだ」
「野垂れ死ぬがいいさ」
高貴な男は目を閉じて言った。「私には悪心など微塵もない……」
「俺にはあるぜ」青年がことばを発した。「そこにいる、俺の相棒もだ」
青年は、通行人どもにも聞こえるように、ありったけの声を出して言った。
「おうおう、俺たちゃ悪人だ、地獄の底へ落っこちてやら。だがな、この真ん中のは一味も二味も違うぜ。両端はただの盗人、だがこの真ん中のやつは、世にも恐ろしい謀反人だ、国家に弓引く大悪人だ」
顎髭の男はなにも言わない。代わりに顔を上げ、目を閉じた貴人の顔をうかがった。彼の目には涙がにじんでいたが、口元はやさしく微笑んでいるようにも思えた。
「俺たちゃたしかに盗みはやったが、さすがに国にまでは逆らえねえ。そこまで落ちぶれちゃいねえってんだよ。俺たちにとっては死よりも屈辱的な刑罰だ、こいつの目の下にくくりつけられるとはな」
「どういうつもりだ」ついに、顎髭が口を開いた。
「花道だよ」
「花道……、この高貴なお方のか」
青年は笑って言った。「俺たちのさ」
日が沈み、湿った夜の空気が谷間をおおった。雨もすこし降った。
この翌日、太陽が南の空へ昇った頃には、三人の男はすでにこの世になかった。
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