HERO

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 負けちゃったね。なんでだろうね。最後の夏。アルプススタンドに向かう選手を見てると、無性に涙が溢れてくる。  負けたのが悔しくて、泣いてるんじゃないんだよ。  最後だから。みんなと一緒にいられる夏が終わっちゃうから。だから、みんな泣いてるんだよ。  だって、亮の帽子にも、書いてあったもん。 『このチームで、甲子園に行く‼︎』  あのばかだって、少しでも夏が長くなるように、頑張ってたんだよ。  あれ、なんか、ヤバい。私史上一番泣いてるかも。  全然、涙止まんない。  選手のみんなが、戻ってきた。みんな、これが最後なんだよね。 「ひと…」  亮。ばか。なに泣いてんの。らしくないよ。そんなにボロボロ泣いて、涙もろい山川は泣いてないじゃん。なに山川に支えられてんの。 「ごめん。俺…。みんなと、もっと野球がしたくて。でも…」  思わず、亮の頭に帽子を被せた。だって、どうしたらいいかわかんないし。  ヤダ、そんな見ないでよ。私の顔。めっちゃ涙でぐちゃぐちゃになってるから。  でも、でもね。亮。言わせてほしい。これだけは…。 「…ありがと、亮」 「え…?」 「負けても、勝っても…。私のヒーローは、亮だから」  夏が終わる。みんなとの夏が。  みんな、みんな、この夏のヒーローだったよ。  しばらく野球はできなくなるけど、でも、まだまだ思い出は作れるよね。  たくさん、たくさん、思い出作ろうね。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加