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カキーン。
白球が青い空に舞い上がる。舞い上がった白球。だけど伸びはない。ゆっくり、ゆっくり。まるでバドミントンのシャトルのように落ちていく。
「おーらい」
パシッ 乾いた音。ボールがミットに収まった。
「スリーアウト、チェンジ」
ベンチからはため息が漏れる。俺も一緒にため息が出ちまった。ランナー残塁はキツいよな。あと少しで点が入るってのに。
「広沢、行こうぜ!」
「亮、行こう!」
仲間たちが、声を掛けてくる。俺はグローブを握ると、左手にはめた。
9回表。5-2のビハインド。9回裏で逆転するには、もう1点もやれない。しかも相手は強豪・長生。点を獲ることさえ、難しいかもしれない。いや、もう9回だ。逆転なんて無理だよな?
マウンドに上がる前、振り向いてベンチを見る。記録員としてベンチに入った、マネージャーの佐藤 仁美がこっちをじっと見つめている。
なんて顔してんだよ。たしかに、甲子園に行けたらキスさせてくれって言ったのは俺だけど…。
打順は1番から。ああ、めんどくせえ。ランナー出たら4番に回るな。いや、長生は3番から6番までアホみたいに打ちやがるから、そんな関係ないか。
キャッチャーの山川が、ミットを構える。球数はもう100球を超えてる。果たして、あとどれくらい全力で投げられるのか。
『どんなボールでも、必ず捕ってやるから!』
なんとなく、山川の言葉を思い出した。いつ言われたっけ? 予選前か? 力士みたいな体型なのに、つぶらな瞳しやがって。暴投になっても、絶対捕れよ。
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