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「きょうもメッセージが来てる! 」
芽衣子はオンラインゲームの手紙のアイコンを開いた。
フレンドのファントムからメッセージが届いている。
先週芽衣子が書いた、あのあいさつのメッセージに対し、ファントムは気を悪くせず返信してきたのだ。それがきっかけとなって、毎日1往復くらいずつやり取りを続けるようになった。
「こんにちは 。昨日はお疲れ。やっぱりメイはゲーム上手いね! 」
ファントムがメッセージをくれていた。
「ファントムさんも上手いです。さすがです。尊敬します」
芽衣子は急いでメッセージを書いて送信する。
芽衣子はメイという名前でオンラインゲームに参加している。
メッセージを送ったから、そろそろゲームをしようとしたら、次のメッセージがもう届いた。
いつも返信は次の日で、その日のうちに返信が来るということはないのに……
少し驚いたが、芽衣子はファントムが今このゲームにいることがうれしくなった。
ファントムがメッセージをくれたってことは、いまオンライン中ってことだ。
「学校が終わったからいまからゲームです。ファントムさんはきょうはログイン早いですね」
「今日は休みだったんだよ」
ファントムからの返事が来た。
「そうなんですか。よかったですね。いまからゲーム開始ですか」
「そうそう。メイを待っていたんだよ」
芽衣子は驚きと同時にくすぐったいうれしい気持ちが湧きあがる。
「ええ! ほんとですか? うれしいです」
芽衣子は素直に気持ちを表現した。
「メイっていくつ?」
「12歳」
芽衣子は12歳と書いたが急いで消した。それから「中学生」と書いた。
「ファントムさんはいくつですか」
「いくつだとおもう?」
「ええ! 高校生? それとも大学生? きょうおやすみだったんですよね?」
「そうそう。当たり。高校生」
ファントムからの返事に芽衣子は納得した。「勉強難しくなってきたでしょ」
ファントムがいう。
「そうなんです」
「僕もそうだったよ」
「最近親が勉強しろってウザい」
芽衣子が思わず本音を漏らした。
「そうだよね笑。うちもだよ」
ファントムも胸の内を明かした。
芽衣子はゲームそっちのけでファントムとのメッセージのやり取りを楽しんだ。
すっかりファントムと親しくなった芽衣子は、オンラインゲームの前にまずファントムがいるか、DMを送ってチェックするようになった。メッセージを送って、すぐに返してくれれば、いっしょにゲームもできるし、メッセージのやり取りもできる。
たまにいないときもあるけど、ほとんどのときファントムは芽衣子の呼びかけに反応してくれた。
さすが高校生。ゲームのテクニックもすごい。
芽衣子が困っていると、敵をあっという間にやっつけてくれた。
今まで自分だけで頑張ってきたけれど、ファントムがいるから心強くなった。そして芽衣子は毎日ファントムとゲームをするのが楽しみになっていた。
「芽衣子!ちょっとなんなの? この点数は!! 」
うっかり自分の机の上に置きっぱなしにしていたテストを母親に見られたにちがいない。
あまりにひどい点数の算数のテストだったので、芽衣子は学校でくしゃくしゃに丸め、家に帰ってもそのテストはやはりひどい点数のまま(当然だけど)だったので、くしゃくしゃのまま机の上に置いておいたことを芽衣子は思い出した。
芽衣子は「しまった」と思った。
母親のヒステリックな声はこれから説教が行われると予言していた。
「はいはい」
芽衣子はうんざりしながら母親の質問に答えようと自分の部屋へ向かった。
「この点数は何?」
「あー、うっかり……」
「うっかりっていう点数じゃないでしょ。掃除しようと思って部屋に入ったら……どうしてこんなに汚いの。来年は中学生でしょ。しっかり勉強しなければいけないのに、部屋も汚くて……いますぐ片付けなさい」
40点というテストは我ながらまずいなと思っていたところだ。だが、もう取っちゃった点数はしかたない。受けなおすことはできないんだから。
そう言っても、母親は聞く耳を持たないだろう。次頑張るっていっても、母親という生き物は信用しないのだろう。でも言わないと、説教はまだまだ続くに違いない。ああ、母としゃべるのは面倒くさい。
「だから、次は気をつけるって。ちゃんとやるって。部屋も片付けるから」
「最近、夜遅くまでゲームしてるからじゃないの?わかってるんだからね。これ以上成績が悪くなったら、ゲームを取り上げるから」
「う、うん……ゲームのせいじゃないから。ちゃんとやるから」
芽衣子は言葉を濁した。
確かに芽衣子は毎日12時近くまでオンラインゲームをしていた。オンラインゲームだから、自分の都合で抜けるとグループに迷惑をかけるのだ。だから切りのいいところまでゲームしなければいけない。
「そんなにゲームばかりして……もうすぐ中学なのに。塾に行く? やっぱり塾に行かないとだめかしらね。この点数じゃ中学はいってから大変よ。高校入れないかもよ。わかってる? 」
母親に成績を言われ、高校受験についてもいわれ、芽衣子はうんざりする。
「いいよ、別に……」
芽衣子は適当に返事をした。
成績よくないのはわかるけど、そのうちちゃんとやるって。
そう言おうとしたが、母親の言い方にムカついておもわず「いいよ別に」と言ってしまった。
芽衣子の母の顔色がみるみる変わっていく。
「何言ってんの! わかってるの? 適当に返事して。何がいいの。本当に分かってるの? 成績悪いと将来やりたいことができなくなるわよ」
「うるさいなあ……」
「うるさいって何よ。芽衣子、今から勉強すれば大丈夫なんだから、やりなさい。ちゃんとやりなさい。」
芽衣子は母親の背中を部屋の外へ押し出した。
「いいって、もう」
芽衣子は母親を部屋の外、つまり廊下に追いやることに成功した。
芽衣子は自分の部屋のドアをバタンと閉めた。
むしゃくしゃする……。あああ、もういやになる。どうしてこうなるのよ。勉強したってどうせできないのに。どうしてゲームしてちゃいけないのよ。
心をぐちゃぐちゃにされ、芽衣子は腹立たしくなった。
将来やりたいことって何? そんなの、わかんないよ。 わたしに何ができるの? 何がしたいの? そんなの全然わからないよ、まだ。それなのに成績、成績ってうるさいんだよ。中学行ったら、何が変わるんだよ。高校受験がどんなものかなんて全くわからないよ。お母さんはほんとうにうるさい。
芽衣子は悪態をついていたが、物足りなくなってベッドの上にある枕をつかむと、ベッドに何度も打ちつけた。
芽衣子は大きく深呼吸した。
やばい。思いっきり枕を振り過ぎたようで、肩がいたくなった。
はあ。もういやになる。
うまく行かない自分に自己嫌悪だ。
芽衣子は大きく息を吐いた。
芽衣子はオンラインゲームを立ち上げ、ファントムにDMを送った。
「親とケンカした」
ファントムに送ると数秒で返事が来た。
「大丈夫?? 」
ファントムの人柄を表しているようだ。やさしい言葉が心にしみわたる。
「いつも優しいメイだって、問い詰められたらイライラしちゃうよね。親に将来とか勉強とか言われるとね……わかるよ」
芽衣子の目には涙が浮かんだ。
ファントムはわたしの気持ちを分かってくれる。ファントムならわたしを理解してくれる。
「うん、勉強しないといけないなんてわかってるよ」
「そうだよね。メイならちゃんとわかるよね」
「うん」
芽衣子の目から涙が落ちた。
「でも親に言われたくないよね、メイの気持ち、よくわかるよ」
ファントムが芽衣子に寄り添ったコメントをよこす。
「うん、親に言われるとむしゃくしゃするし、反論するのめんどくさいし……何言ったってわかってくれないんだもん」
「そうだよなあ」
ファントムは同意した。
「僕でよかったらいつでも相談乗るから」
「うん。ありがとうございます」
芽衣子はファントムに返信した。
「でもね、メイ、ちゃんと勉強しないと、高校受験つらいからちょっとずつ勉強はしといたほうがいいよ笑」
ファントムから言われても、ぜんぜん腹がたたないのはどうしてだろう。
芽衣子は不思議に思う。あんなに親に言われると腹が立つのに……
「はーい。がんばります。ところで、あそこの攻略ができないんですよ。教えてください」
芽衣子は話を切り替えた。
「じゃ、ゲームしようか」
「はい」
芽衣子はファントムとオンラインゲームを開始した。
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